トラップ -3-

「ようやく素直になったな。いい子だぞ、それでこそ私の偉音だ」
 満足げに笑う飯島。悔しそうに視線を伏せるネオン。
 俺は訳が分からず、羽交い締めにされたまま目を白黒させた。
 だってこんなの有り得ないじゃないか。あの偉音が、こんな男の前に跪くなんて。こんなのただの演技のはずだ。従うふりをして油断させてるだけだ。
 どうして飯島もネオンもそれが分からないんだろう。偉音がこんなことするはずないって、少し考えれば分かることなのに──

「よし。偉音、あの頃のようにしてみろ」
「………」
 無言で飯島のファスナーを下げようとした偉音に、下卑た声がかけられる。
「こっちのテクニックもだいぶ成長したのだろう? 楽しみだ」
 周りのギャラリー達が偉音を見て笑っている。好奇と欲にぎらついた目で、飯島のそれを咥えた偉音を視姦している。
 俺の知らない偉音の姿。
 飯島も、ギャラリー達も、ネオンも。これが偉音の演技でないと分かっている。分かっていないのは俺だけだ。
 偉音の過去を知らない、俺だけだ。
「お、おお……素晴らしいぞ、偉音……」
 それでも俺は信じることが出来なかった。
「んん、んっ! んん、……!」
 止めさせたくて、くぐもった声で必死に叫ぶ。暴れても体は自由にならず、悔しくて悔しくて、頭がおかしくなりそうだ。

「宇咲」
 気付けば、俺のすぐ目の前にネオンが立っていた。
「んんっ……!」
「なあ、オーナー。偉音はあなたの願いを聞いてやったんだから、宇咲は解放してもらうよ。交換条件なんでしょ?」
 偉音の頭を押さえながら荒い呼吸をする飯島が、俺達を見てにやりと笑った。
「ああ、好きにしろ。お前達も偉音と来たいなら構わないぞ。特に宇咲君、きみは多くの客から必要とされているからな」
「勘弁してあげてよ、オーナー。……偉音をゲット出来ただけで満足してくれなきゃ、これ以上は強欲だよ」
 男の手が俺の口から離れ、ネオンの方へと諸手で背中を突き飛ばされた。
「──ネオンさんっ! 止めさせて、こんなのおかしいっ……偉音! 止めろよ、止めてくれ!」
「宇咲」
 今度はネオンに体を押さえられる。
「偉音の決めたことは妨害しちゃ駄目だよ。大人しくしてて」
「で、でも!」
 どうしてネオンは怒らないんだろう。俺なんかよりずっと偉音との絆は深いはずなのに。本当なら俺以上に悔しい思いをしているはずなのに、……

「ウサちゃん」
 耳元で低く、ネオンが囁いた。
「偉音を信じてやって」