トラップ -2-

 背後から伸びてきた手に口を塞がれ、体の自由が封じられる。突然のことに何も対応できず、俺は離れた場所でネオンに何か話している偉音に向けて無言のまま手を伸ばした。
「……、……!」
「宇咲っ、……?」
 すぐに気付いた偉音の顔が、鬼の形相へと変わってゆく。
「何のつもりだ、てめえ……」
「お前が言うことを聞かないからだろう、偉音」
 俺を押さえているのは知らない男だったが、それを言ったのは部屋に入ってきた飯島だった。
「それどころかお前は、この私を脅すなどという最も愚かな行動に出た。これまでの恩を忘れて好き勝手できるほど甘い世界じゃないと、お前も分かっているはずだ」
「……あんたみたいな卑怯者の罠にかかるからな」
「偉音、私達は互いに命綱を握っているようなものだろう。これまでもそうしてきたつもりだが、今後はもっとお前達の待遇も良くしてやる。……だから、私から離れないでくれ偉音……」

 飯島の寂しそうな訴えにネオンが顔を伏せ、上目に偉音を見つめる。
「偉音、……」
「騙されんなよネオン。今までされてきたこと、思い出せ」
 俺には「それ」が分からない。……分からないけど唇を噛んだネオンの表情を見れば、彼らが相当なことを飯島からされてきたんだということだけは想像できる。

 俺が捕らえられたということは、俺がこの場をどうにかするための鍵になったということだ。
 俺で解決できるならそうしたい。偉音とネオンのこれからの道に影を差す不安要素を、取り除きたい──。

「何が望みだ、あんた」
 偉音の問いに、飯島が答えた。
「私は私の人生を楽しみたいだけだ。お前もそうだろう。表現者の端くれなら、自分の好きなことをやれる素晴らしさというものが身にしみて分かっているはずだ」
「………」
「だから、交換条件だ。この青年をお前に返す代わりに、お前も私の元にとどまれ」
「……俺がやりてえのは、自分の好きなことだけじゃねえ」
 握った拳が震えている。偉音は苦虫を噛み潰したような顔で俯き、そして……ベッドの上で悲痛な面持ちをしているネオンに言った。
「お前とはコンビ解消だ。ネオン、お前は自由になれ」
「な、何言ってんの偉音……」
「んっ、んんっ……!」
 俺も叫んだが、その声は背後から塞がれてしまう。
 偉音が鋭い眼差しを飯島に向け、こちらに向かって一歩ずつ近付いてきた。
「………」
 そして飯島の前で跪き、……言った。
「何でもするから宇咲を離してやってくれ。ここまで巻き込む必要はない」

 ──偉音。

 心の中でその名を呼んだ瞬間、俺の目に滲んだ涙が耐えきれず零れた。