トラップ

 そろそろ戻っている頃だと言う偉音の後に続いてメイン会場に戻り、ネオンの姿を探す。金髪に白スーツ姿だから見渡せば目に入るはずだけど、そこにネオンはいなかった。
「あいつ、まだ話してんのか。お喋りな奴」
「話って、仕事の契約とか? それなら長引いたりもしそうだけど……」
「いや、そんな予定は聞いてねえな」
 偉音が取り出したスマホでネオンにコールするが、すぐにそれを切って「繋がらねえ」と呟いた。
 何となく嫌な予感がした。今さっき飯島とあんなやり取りをしていたからか、尚更不安になる。


「単純に話し込んでるか、どっかの色男に誘われたか、……」
「そのどっちかだったら、連絡繋がりそうなものだけど……」
「………」
 偉音が無言で歩き出した。向かう先にあるのは、例の「接待部屋」だ。
 まさか、ネオンに限って。
「偉音様、こちらの入室には許可証が……」
「うるせえ」
 扉の前に立っていた飯島側のスタッフを押しのけ、偉音が強引に部屋の扉を開けた。

「………」
 目の前に異様な光景が広がる。部屋の中には壁に沿って幾つかの広いソファがあり、俺が出たクラブにいたような紳士達が各々ソファに座って談笑していた。
 彼らがしているのは世間話程度のどうでもいい話だ。
 ……だけどその膝の上には全裸の青年が跨り、体を弄られ喘ぎ乱れていた。床に跪き紳士のそれを咥えている青年もいれば、逆にソファに立たされ自身のそれを弄ばれている青年もいる。
 皆首輪を嵌められ、そこから伸びる細い鎖をそれぞれの紳士達に握られていた。


「悪趣味な成金野郎共が」
 偉音が嫌悪感を露わにして吐き捨てる。俺はその光景を直視できず、慌てて俯き足元の絨毯を見つめた。
 偉音達がやるのはあくまでもパフォーマンス、ショーとしてのSMだ。だけどここにいる男達は、己の欲のためだけに無理矢理相手を従わせている。この部屋でもう何時間も、そして何人もの相手をさせられているのだろう。青年達は目が虚ろで、その表情は全てを諦めているように見えた。
「……クソ!」
 それぞれのソファは部屋の中央に向き合うよう設置されている。
 中央には、一昔前のラブホテルにあるような大きな円形のベッドが鎮座していた。
 ……ネオンは、その上にいた。

「ネオンさん──!」
 ネオンは黒い革の目隠しをされ、耳はヘッドフォンで塞がれていた。そうして数人の男達に押さえ込まれ、今まさに犯されようとしていた──
「何やってんだ、てめえら!」
 偉音がベッドまで駆けて行き、ネオンに群がる男達を強引に引き剥がす。
「こいつに触んじゃねえ、ぶっ殺すぞ」
 偉音の剣幕に恐れをなしてか、あっさりとネオンに群がっていた男達が身を引いた。
「ネオン、大丈夫か」
 目隠しとヘッドフォンを外すと、惚けた顔のネオンが偉音を見つめて呟いた。
「偉音、……ごめん、俺……あいつに、抜けるならこれまでの支払いしろ、って……」
「……馬鹿野郎。そんな真似する必要ねえって前から言ってるだろうが」
 ともあれ、ネオンが無事なのを見てホッと胸を撫で下ろす。飯島は何か企んでいたみたいだけど、どうやら事前に防ぐことができたみたいだ。

「いお、……」

 二人の元へ駆け寄ろうとした俺の体が、瞬間──後方へ倒れる。