意外な気持ち -3-

「飯島さん。俺達は先に宇咲を連れて挨拶に回って来ます」
「そうか、分かった。また後でゆっくり話そう」
 飯島オーナーに背を向けて歩き出す。途中、ネオンが知らない男から声をかけられて俺達から離れて行った。
「あ、あれ。ネオンさん一人で大丈夫なの?」
「ああ。くだらねえ接待を兼ねた飲み会だけど、一応は人脈を広げるチャンスでもあるからな。俺達はいつも二人で組んでる訳じゃねえ」
 遠目に見るネオンは男からグラスを受け取り、笑っていた。肩を叩かれたり腰を撫でられたりもしているが……本当に大丈夫なんだろうか。

「偉音ちゃん!」
 ネオンに気を取られていたら、突然俺達の方にも派手なチャイナドレスを着た大柄な女性──恐らく男性──がやって来て、偉音の頭を撫で回した。
「あらあらぁ、久し振り! 一段と男前になったわね!」
「久し振りです、アンナさん」
「またウチの店でもショーやってよ。再来月に改装するから、ステージも大きくなるの」
「声掛けてくれれば行きますよ」
「ネオンちゃんも一緒にね。あんた達が出るとそれ目当ての客で繁盛するから、売上げがピンチの時は本当に助かってたわよ」


 ところで、とアンナさんが俺に嬉しそうな視線を向ける。
「偉音ちゃんの恋人? とうとう固定の子、作ったの?」
「ち、違っ……!」
「宇咲っていいます。俺の男なんで、スカウトは無しですよ」
「なっ、何言ってんだよ、いお──」
「やだー、もう! やだあ、人の事なのに嬉しくて泣けちゃう。あの偉音ちゃんが彼氏連れて来るなんて。ウチの子達、偉音ちゃんのファン多いからショック死するんじゃないかしら」
 アンナさんが俺の頭をめちゃくちゃな力で撫でながら言った。
「あんた、偉音ちゃんのこと頼んだわよ。この子が誰かに惚れるなんて滅多にないんだから、幸せにしてもらいなさい」
 せっかく自分なりにセットした髪がぐしゃぐしゃだ。アンナさんの手から解放された俺はやっとのことで「はい」とだけ返事をし、ふらつく足で偉音について行った。

「何であんなこと言ったんだよ。勝手に……お、俺の男とか」
「他の連中がお前に手出しできねえようにするためだ」
 それは有難いけれど、もっと他にやり方があるんじゃないかと思う。

 その後も会う人、会う人に「俺の男」だと紹介され、そのワードを聞くたび顔が赤くなった。一滴も酒を飲んでいないのに、もはや今の俺は酔っ払っているみたいだ。
 偉音が声をかけた人達は皆優しかった。その殆どが会員制クラブやバーの経営者で、長年偉音に仕事を依頼している人もいれば、前に一度だけ会ったことのある人、最近仕事の声をかけてくれるようになった人と様々らしい。
 彼らは見た目も経営している店の規模も違うけれど、皆一貫して良い人達で、偉音も彼らを信頼しているようだった。
 それだけに、皆の前で恋人宣言する偉音の真意が分からない。別にそんなことをわざわざ言わなくたって、俺なんかに手を出してくるような人達じゃないだろうに。