意外な気持ち -2-

「偉音。ウサちゃん」
 ビルの前に立っていたネオンが俺達を見つけて駆けてきた。白のスーツは似合っていたがいつもの柔らかな笑顔はなく、どことなく緊張しているように見える。
「良かった。取り敢えず合流できたんだね」
「ネオンさん。あの、今日って一体何が……」
「不安だろうけど偉音の言う通りにしてやってよ。ウサちゃんのことは偉音が守るから大丈夫」
「ま、守るって?」
 ネオンから黒いジャケットを受け取った偉音が、それに腕を通しながら言った。
「上の変態連中に気に入られたんだ、お前は。奴らは今日、隙あらばお前をマワすつもりでいる」
「はぁっ?」
「品のない言い方だけど、そういうことだよ。だから偉音の傍から離れないように気を付けて。俺はずっと一緒にいてあげられないから」
「ネオン、お前も無理すんなよ。ムカつく奴がいたら俺に言え」
「大丈夫! 俺だってもうガキじゃないんだから、自分で対処できるよ」
 ……何だか、不穏な空気だ。目を見て頷き合う二人は、まるで敵地に乗り込む前の兵士みたいだった。

「偉音様、ネオン様。お待ちしておりました」
 二十六階でエレベーターを降り、目の前で開かれた会場の中へと足を踏み入れる。あのステージの時と同じくらい俺が緊張しているのを察知してか、偉音とネオンがぴたりと俺を挟んで隣を歩いてくれていた。

「おお。偉音、ネオン」
 フロアの奥にできていた小さな人だかりから偉音を呼ぶ声が上がり、続いて片腕と首を伸ばした男の顔が視界に入る。それに釣られる形で、その男の周りにいた他の人達も揃って俺達を振り返った。
「飯島さん、お疲れ様です」
 偉音とネオンが、中心にいた男に軽く頭を下げた。この人がオーナーの飯島氏か。それはいかにも金持ちですって感じの脂ぎった小太りのおじさんだった。
「ああ、君だ。君だ」
 そのおじさんが俺を見てパッと笑顔になり、手招きしてきた。偉音の顔を見る。その表情は張り詰めていたが口元は笑っていて、小さく頷かれた。
「は、初めまして。桐山宇咲です」
 飯島オーナーを始め周りの紳士達も皆上等なスーツを着ていて、にこやかに笑いながら俺を見ている。
「彼のことは皆さんも先日ご覧になったでしょう。素晴らしいパフォーマンスをしてくれた」
「おお、彼が例の」
「近くで見るとまだ幼い少年のようですね」
「………」
 出来れば蒸し返して欲しくない話だ。俺は縮こまって頭を下げ、早々に偉音の元へと戻った。

「宇咲」
 偉音が呟き、肘を張る。
 俺は迷うことなくそこに手を伸ばし、偉音と腕を組む形を取った。脚が震えていたのを見られていたんだ。何かに捕まっていないと不安で、つい偉音の逞しい腕に強くしがみついてしまう。