意外な気持ち

 心の底から行きたくない。でも本当は行きたい。行きたくないと行きたいの丁度中間で、俺の心はもう破裂しそうだ。
 土曜のギャラを払うついでに、あのクラブのオーナーに紹介する。
 土壇場になって偉音に言われた。何でもそのオーナーとやらは俺の例のアレを見てひどく感動したとかで、是非挨拶をしたいと言っているのだそうだ。


 行きたくない。俺のあの痴態を見た人と会うのがまず嫌だし、しかもそれがお偉いさんであるというから更に行きたくない。
 だけど、偉音には会いたい。ネオンにだって会いたい。もう関わりたくないなんて言ってしまったけれど、あの時は腹が立っていただけで二人のことは嫌いじゃないのだ。
「別に緊張するような相手じゃねえ。ただのオッサンだ」
「緊張するよ。……だって偉音達の上司みたいな人なんでしょ?」
「そんな良いモンではねえな」
 二週間ぶりに見た偉音は相変わらず綺麗でカッコ良かった。中指に新しいタトゥーが入っている。右耳のピアスも二つ増えている。……よく覚えてるなぁ、俺。

 今日これから行くのはそのオーナーが所有しているビルの催事場で、土曜のクラブとは丁度反対側の地区にあたる場所だった。
 酒が出るからという理由で珍しく移動手段は電車だ。俺が運転しても良かったけれど、こうして偉音と電車に乗るのも新鮮で、しかも空いた座席を俺に譲ってくれるという些細な優しさに少しだけ恥ずかしくなって、こんなデートじみた真似も悪くはないな、なんて勝手に思ってしまった。

 当然のことだけど、偉音だって電車の乗り方は知っている。吊り革に掴まるということも、自動改札機の通り方も。
 初めてファミレスで食事をした時も思ったけれど、あれだけ過激なことをしておきながら偉音も普通の男なんだなと感じた。
 偉音も切符を買うんだ、とか。乗車の時はちゃんと列に並ぶんだ、とか。
 そんなどうでもいいことなのに、偉音の「普通さ」が俺の目には新鮮で……少しだけ笑ってしまった。

「初めに言っておく。宇咲、お前はじっとしてろ。必要最低限以外のことは喋るな」
 駅を出てから、突然偉音がそんなことを言い出した。
「どういうこと? まさかまた何か二人で企んでるんじゃ……」
「いや、今度のは騙しでも何でもねえ。とにかく約束してくれ」
 じゃあやっぱり前回は騙してる自覚があったのか。そこに突っ込むべきか迷っていると、
「絶対に俺の傍から離れるな。誰に何を言われても無視しろ。間違ってもついて行くなよ」
「……何だよ。何が起こるっていうんだ?」
 あまりにも偉音の目が真剣で、俺は思わずごくりと喉を鳴らした。