囚われの操りドール -2-

 ネオンが俺の肩を抱いて言った。
「それじゃ、行こう。楽屋で偉音が待ってるよ」
 煌びやかなシャンデリア、並ぶ華奢なグラス、正装姿の紳士達……
「あの、……女の人はいないんですね」
「うん。今日は女性のお客様は来ない日なんだ」
「ふぅん……?」
 よく分からないけど納得したふりをして、俺はネオンの後を追った。

「偉音、お疲れ様」
 広い楽屋には沢山の花輪や花束が置かれていた。豪華な鏡台に沢山の衣装、小道具。他の出演者も同じ楽屋を使っているらしく、飲み物のボトルには乱雑な文字でそれぞれの名前が書いてある。
「よう、早かったな」
 偉音は奥のソファに寝転がり、煙草を咥えていた。どうやら今の時間は俺達しかいないらしい。
「フロアも少しだけ見せてきた。宇咲くん、出番までまだ時間あるからゆっくりしてていいよ。仕事後だし疲れてるでしょ」
「は、はい。ありがとうございます」

 ぎこちなく鏡台前の椅子に腰掛け、ネオンが渡してくれたお茶のボトルを有難く受け取る。胸の高鳴りは激しくなる一方だった。良い意味での緊張感──ネオンが言っていた感覚って、こんな感じだろうか。

「………」
 寝転がって天井を見つめている偉音の目は、まるで精神統一でもしているかのように鋭く真剣そのものだった。
「宇咲くん、飯まだだよね? 何か貰ってきてあげようか」
 一方ネオンは普段と同じ人の良さで、ニコニコと陽性の笑顔を浮かべている。対称的な二人の間で、俺は小さく首を振った。
「大丈夫です。緊張してて、あんまり食欲ないので……」
「でも出番まで時間あるよ? あっ、それじゃ俺コンビニ行って何か適当に買ってくるから、お腹空いたら食べてよ」
「そ、それなら俺が行きますよ」
「いいから、いいから。宇咲くんは偉音とおしゃべりしてて」
 とてもおしゃべり出来る雰囲気じゃないけれど、食い下がるのも違う気がして俺はネオンに礼を言った。
「すみません、お願いします」
「うん、じゃあ待っててね」

 ネオンが楽屋を出て行ってすぐ、身を起こした偉音がソファの下に手を伸ばして紙袋を取り、俺に投げて寄越した。
「何、これ?」
「ベーコンチーズサンド。今のうち食っとけ」
「ネオンさんがわざわざ買いに行ったのに……」
「あいつの食い物のチョイスには期待しない方がいい。とにかく食っとけ」
 そう言ってまた寝転がる偉音。

 仕方なく貰ったパンを食べていると、コンビニから戻ってきたネオンが「あ、パン食べてるね! 美味しそう」と何の疑問も抱かずに言った。
「ネオン、俺の水買ってきたか」
「あいよ。取り敢えず水とお茶と全部で十本買ってきた」
「宇咲、お前も飲んどけ。喉乾いてるだろ」
「あ、ありがとう……」
「偉音は何か食わないの? 大好きな唐揚げ買ってきたよ」
「今はいい。終わったら食う」
「相変わらずのフリーダム野郎だなぁ。そう言う俺はショートケーキ食おうっと」
「………」
 俺に言わせればどっちも自由人だ。