囚われの操りドール

 いつも通りの仕事をしていても、胸の裡に秘密を抱えているというだけで何故か心が浮つき、ふわふわとした思考になってしまう。
 今日まで何度書類チェックのやり直しをする羽目になっただろう。将造は相変わらずアイドルの話で活き活きしているし、田中さんは頼りない見た目に反して俺のフォローをしっかりしてくれている。人に恵まれた職場ではあるが、皆、俺のこの後の予定を知らない──知る由もない。

「それじゃあ、お先に失礼します」
「お疲れ様です、桐山くん」
「お疲れ様でーす」
 事務所を出てドアを閉め、腕時計を確認する。午後十時。もうパーティーが始まっている時間だ。

 今回はクラブでのパフォーマンスではなく、富裕層の集まる社交界的なパーティーでそれを披露するのだそうだ。だからパフォーマンスにもストーリー性があって、舞台を見ているような現実離れしたひと時を演出するのが目的だと、ネオンが言っていた。
 ──緊張するなぁ。

「宇咲くん!」
 待ち合わせ場所の駅まで迎えに行くと言っていたネオンが、俺の衣装選びの時に偉音が乗っていたのと同じ車でやって来た。
「お、お疲れ様ですネオンさん!」
 運転席のウィンドウを下げ、ネオンが笑って「こっち回って、隣乗って」と言った。
 相変わらず、綺麗な人だ。本番当日だからか、前に見た時よりも肌や髪のツヤが良く一層美しく見える。

 胸を高鳴らせながら車に揺られること約十分、やがて前方に少し派手な建物が見えてきた。外観の黒い壁も、縦に長い二等辺三角形みたいなデザインの入口も、照明の当たり具合できらきらと細かなダイヤが光っているかのようだ。
「まだだいぶ時間あるからね。少し見学する?」
 車を停めて入口へ入って行くネオンの後を追い、俺は生まれて初めてパーティー会場という不相応な空間に足を踏み入れた。
 執事みたいなエントランスの受付係がネオンに頭を下げ、ついでに俺にも微笑んでくれた。ガラス製の広い階段を怖々上り、目の前の重厚な扉を開けば、そこは──

「わ、……」
 吹抜けの天井に広々としたフロア、金色に輝く壁と赤い絨毯。円形のテーブルが綺麗に配置され、紳士達がシャンパングラスを片手に談笑している。
 驚いたのはステージの設計だった。
 よくある体育館やライブ会場のようにフロア前方に舞台がある形で、そこでパフォーマンスが行なわれるのだとばかり思っていたけれど、違う。
 前方に舞台があるにはあるけれど、まるで歌舞伎のように舞台中央から花道が伸び、それがフロア中心の「盆」と呼ばれる巨大な円形ステージへと繋がっている。
 観客席は、その「盆」を囲むようにして配置されていた。なるほど、四方八方からパフォーマンスが見える状態ということだ。
「凄いですね。思ってたより豪華なステージだ……」
「わくわくするでしょ? 早く立ちたいよね!」