偉音との再会、ネオンとは初対面 -5-

 店の外に設置されている灰皿に煙草の灰を落としながら、ネオンが言った。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。偉音は君のことちゃんと考えてる」

「……でもやっぱ俺、何もかも初めてだから……。心配っていうより、分からないことだらけなのが不安っていうか」

 自販機でネオンに買ってもらったコーラを飲みながら、俺は店の中へと視線を向けた。偉音とシマさんはまだ話し合っているらしく、その顔は真剣だ。

「分からないこと、初めてのこと、それを不安に思うこと。それってすごく楽しくない?」
「え?」

 ネオンがゆっくりと紫煙を吐き、爽やかな笑みを浮かべて言う。
「俺も初めての時は凄く緊張したし、怖いって思うことも沢山あったよ。だけど怖い以上に気持ちがわくわくしてさ。良い意味での緊張感、っていうのかな。今じゃそんなの思うことないから、宇咲くんが羨ましいよ」

「………」
 柔らかな金髪が太陽光を弾き、きらきらと輝いている。爽やかなネオンの笑顔に少しだけ頬を赤らめながら、俺はぎこちなく質問した。

「ネオンさんは、どうしてこの仕事を始めたんですか?」
「俺は先輩から誘われたんだ。海外でストリップやってる人なんだけど、すっごいカッコよくてさ。たまたま話す機会があって、そこで誘われたの」

「偉音とは三年前から組み始めたって聞きましたけど……」
「そうだよ。デカいクラブだとダンサーも複数人雇われるから、偉音とはそういう時にちょくちょく顔合わせててね。イイ男だったから俺から誘っちゃった」
 積極的な人だなぁと、思わず感心してしまう。

「先週末にクラブで二人を見た時、凄く綺麗で見入っちゃいましたよ。様式美っていうのかな。エロいのにカッコよくて、アーティストのプロモーションビデオみたいでした」

「えぇっ、あれ見たの? 恥ずかしいなぁ……。あんなのギャラも安くて小さい仕事だったし、見入るほどのモンじゃないよ」
「そ、そうなんですか?」

 ネオンの説明によると、俺が土曜に見たようなパフォーマンスは仕事が無い時に受けるバイトのようなものらしい。
 二人の他にも何組かのパフォーマーが雇われていて、俺は気付かなかったけどフロアに全三箇所、あの鳥籠の檻が吊るされていたそうだ。
 業界で知名度の高い偉音とネオンが一番目立つ檻に入っていただけで、他の檻でも同じようなことが行なわれていたらしい。

「今までで一番デカかった仕事は、ラスベガスのクラブでやったやつだよ。偉音はイケメンの外国人侍らせて、めちゃくちゃカッコよかった」
「へえぇ……俺には到底縁のない世界だなぁ……」
「後は金持ちの豪邸でパーティーの時に呼ばれたりね。宇咲くん、水族館でイルカショーとか見たことある?」
「ありますけど……」
「あの巨大なプールって、横からガラス越しに中が見えるようになってるでしょ。あんなデカいプールじゃないけど、水中パフォーマンスとかやったりしたこともあるよ。結構楽しかった」
 はああ、と、つい深い溜息が出てしまった。

 エロチックなパフォーマンスでも、その道のプロがやればアートになる。
 彼らはあくまでも主役ではなく、場の雰囲気を盛り上げるためだけの言わば「飾り」だ。それでもそれが有ると無いとでは大違いで、彼らは大金を受け取る代わりに、動き、息をし、見る者の目を楽しませるゴージャスな飾りとなる。
 何度も打ち合わせをし、入念なリハーサルをして、自信とプライドを持ってその場へ立つ男達──正直、カッコいいと思った。
 だからこそ、俺なんかに務まるものではないんじゃないか……

「大丈夫だよ」
 不安げに俯いた俺を見て、ネオンが言った。
「俺達を信じて任せてくれれば大丈夫。初ステージでいきなりストリップやれなんて言わないし、俺か偉音が常に傍にいるから安心して」
「すいません、迷惑かけるかと思いますけど……よろしくお願いします」