おさそい -3-

 出された体液を含んだまま頬を膨らませ、何のことかと目を開いて偉音の顔を見上げる。すると彼の長い指が伸びて来て俺の頬を軽く押し、もう一度「スワロー」と呟きながら今度はその指を頬から顎、顎から喉へと滑らせた。つまりは飲めと言うことか。
 ──普通に言えばいいのに。

 気取っている訳ではなく、偉音にとってはこれが普通のやり方なんだと思った。俺は躊躇いなく偉音の精液を飲み込み、それから、本当に飲んだことを証明するために口を開けて見せた。

「………」
「ちゃんと飲んだよ」
「……ああ」
 自分で言っておきながら、どこか面食らったような顔で俺を見下ろす偉音。何だか気まずくなって視線を逸らすと、「ふ」と偉音の口から小さな笑いが洩れた。

「随分と従順だな」
「だ、だって偉音さんが飲めって」
「そうだけどよ。言われなくても口の中を見せたのは、割とグッときたぜ」
「………」

 言葉にして言われると恥ずかしいが、ともあれ初めて偉音をイかせることができた。俺もまだ捨てたモンじゃない。今夜はよく眠れそうだ──

「宇咲」
「ん?」

 洗面所へ行こうとベッドを下りた俺の背中に、偉音が言った。
「お前、今までの経験人数覚えてるか」
「そんなにないよ。五人くらい」
「セックスはノーマルだけか」
「……うん。何で?」
 偉音の唇が嬉しそうに歪む。

「お前、俺とステージ立ってみねえか」
「え、……?」

 目を瞬かせ、体ごと振り向いて偉音を見つめる。
 ステージに立つって、どういうことだろう。

「パフォーマンスだよ。お前も今日見ただろ」
「で、でも俺、ダンスって言ってもリズム感ないし、運動音痴だから何もできないよ」

 動揺する俺を無視して偉音が続けた。
「別に歌って踊れっていう訳じゃない。俺とネオンがやってたような、『見せる絡み』をパフォーマンスするだけだ」
「ええっ、そんなの恥ずかしいんだけど」
「お前には素質がある」
 偉音の腕が俺の手を取り、甲に唇を落とされた。

「素質……」
「俺はずっと、お前のような新しい素材を探してたんだ」

 低い声に耳が蕩けそうになったが、慌てて首を振り手を引っ込める。
「い、いや俺には無理だよ。俺なんかがやったってみっともないだけだし……」
「そんなことねえさ。お前は俺が見込んだ男だ、自信を持て」
「だけど、……」
「身バレが嫌なら顔は隠してやる。結構な額のギャラも出るし、悪い話じゃねえと思うけどな?」
「………」

 取り敢えずの毎日。
 そこから抜け出してみたいと、ずっと思っていた。

「偉音、……」
 ……こんな形で抜け出すことになるなんて、ちょっと予想外だったけれど。

 俺は裸のまま立ち尽くし、偉音に向かって小さく頷いた。
「ちょっとだけなら、やってみたい。……かも」