おさそい

 日付が変わって日曜の午前一時、俺と偉音はクラブからほど近いファミレスでだらだらと食事をしていた。

 偉音の食べっぷりは凄かった。この時間にハンバーグとステーキのセットを一皿にじゃこのサラダ、マスタード付きのホットドッグと生春巻き四本をあっという間に完食し、今はデザートのイチゴチョコパフェを食べている。

 聞けば、仕事の後は必ず大量に食べるのが癖になっているとのことだった。仕事前は体型維持のために筋肉量と体重を管理する日々が続くらしく、その反動で終わってから好きな物を好きなだけ食べるのが一番の楽しみなのだという。

「今の仕事はいつからやってるんですか?」
「十九だ。ガキの頃から元々ダンスやってて、たまたま行ったクラブでやってたパフォーマンスに一目惚れして、俺も飛び込んだ」

 チョコレートソースがかかった大粒のイチゴを頬張り、偉音が笑った。暗がりの中で見たのとは真逆の、子供みたいな笑顔だった。

「一緒にやってた金髪の人は?」
「あれは相方のネオン。三年前からたまに組んでやってる」
「彼氏ですか?」
「違げえよアホ、あんなんと付き合うくらいなら死んだ方がマシ」

 吐き捨てた偉音につい笑ってしまう。こうして話していると、仕事中の妖艶な姿が嘘かと思うくらいに「普通」の若者だ。

 偉音は様々なクラブから依頼を受けて、硬派なダンスはもちろん今夜見たようなパフォーマンスやギリギリのストリップやら色々やっているらしい。

 職業はと問われれば一応はフリーのダンサーと答えるが、ジャンルを訊かれるといつも口篭ってしまうそうだ。俺もたまに「不動産屋」と言うと裏絡みの仕事と勘違いされるから、何となく偉音の気持ちが分かる。

「でも、偉音さんなら相手に困らないでしょ。どうして俺みたいな平凡な奴を誘ったんですか?」
「たまには妥協も必要だからな」
「はあ……」
 別にいいですけど。呟けば、偉音が口元をナフキンで拭いながら笑った。

「嘘だ、嘘。……まあ、悪い奴じゃなさそうだし。見た目もそれほど悪くねえし」
「そりゃどうも」
「それに、教えれば化けそうだと思ったからな」
「……うん?」

 その言葉が引っかかって視線を上げるも、偉音は別の方向を見ながら煙草を咥えている。鼻の高さと睫毛の長さが際立つ偉音の横顔は美しかった。世の中、こういう所で不平等だからやってられない。

「何を教えるって?」
「……宇咲」

 そうして唇から抜いた煙草の先端を俺に向け、偉音が低い声で言った。

「場所変えるぞ」