偉音という男 -5-

 肩に腕を回したまま、偉音が自重で俺の体を倒そうとしてくる。もちろん偉音のことはカッコいいと思ったしセクシーだとも思った。パフォーマンス中の彼はまるで楽園の悪魔のように妖艶で、見ているだけで腰が疼いた。俺の方だって、今まで誰かといわゆる「一夜限りの恋」をしたことない訳じゃない。

 だけど今日は……今日だけは。

「きょ、今日は駄目ですっ!」
「何でだ?」
 既に体はソファに倒されてしまった。覆い被さってきた偉音が、俺の汗臭い首筋に唇を押し付け、Tシャツの上から胸元を弄っている。

「だ、駄目です……。やっ、ほんとに……今日はやめて下さ、……」
「だから、何でだ」

 俺は潤んだ目で天井を見つめながら、偉音の黒髪を軽く掴んで白状した。

「……今日は、クソダサいからっ……」
「何が」
「……パ、パンツが」
「………」
 偉音が無言で俺のベルトに手をかけた。
「わっ! だ、だからやめて……! ほんと、引かれるからっ……」

 そして止める間もなく、腰の下までジーンズが下ろされる──俺はぎゅっと目を瞑り、両手で顔を覆って「終わった」と呟いた。

 暗がりといえどもこの距離でははっきり見えるだろう。偉音の口から「ふふ」と洩れた笑いを聞き、俺は真っ赤になって上体を起こした。

「だ、だから言っただろ。気が済んだかよっ」
 俺の今日のパンツは至って普通のボクサータイプで、別段エロい訳でも変な趣向がある訳でもない。……だけど、問題はその柄にあった。

「……画期的なデザインだな」
 ──ば、馬鹿にしやがって。

 全体的にハート柄のプリントが施され、ボクサーの前開きの部分を指したコミカルなウサギが「Licking please!!」と言っているそれは、去年の誕生日に蓮司からシャレで貰ったパンツだった。「柄はともかく、しっかりした作りで穿きやすいなぁ」なんて言っていた当時の俺を殴りたい。さっさと捨てれば良かった。まさかこんなことになるなんて。

「頼まれちゃ仕方ねえ」
「え?」
 偉音の長い指が、ボクサーの前開きを割ってそっと中へ侵入する。
「やっ、だ、だから……!」
「構わねえだろ、もうバレたし」
「でも!」
「二十二にしては毛が薄いな」
「っ、……」

 人差し指がその部分を大きく開き、萎えた俺のそれが露出する。顔が燃えるように熱くなり耳まで真っ赤になってしまう──暗がりで分からないのがせめてもの救いだ。

 周りでも半裸になった男がパートナーの上に乗っかったりソファの上で乱れていたりと、もはや何でもありの状態になっている。スローなリズム&ブルースが流れる中で絡み合う彼らのそれは、何だかそれこそ映画のワンシーンのようだった。