友達の作り方 -3-

 翌週の火曜日になって朝礼前の一服をしていると、俺の右隣のデスクの田中さんが「今日からアルバイトの若者がやってくる」と教えてくれた。田中さんは離婚して独り身ではあるものの、それこそ俺とさほど変わらない年齢の息子がいてよく俺に話しかけてくれる。穏やかで争い事を嫌う性格に相応しく、見た目は枯れ木のような人だ。

「今のうちに新人さんを育てれば、繁忙期には戦力になるからね」
「そうなんですか。若者って、何歳くらいなんですかね」

 多少の期待を込めて聞くと、驚いたことに俺と同い年の二十二歳だと言う。それも男で、パソコンに詳しいインテリ系らしい。

「女の子なら良かったよね。うちの事務所、華がないから」
「そうですね」
桐山きりやまくんは彼女いないんだっけ? 彼女でなくても女友達に声かけて、うちに誘ってみてよ」

 田中さんの冗談に、俺は追従笑いをすることしかできない。彼女に、女友達。女の子。普段の俺の頭には一瞬たりとも浮かばない単語ばかりだ。

 だけど、普通の友達になら興味はある。今日やってくる同い年の男は、俺と友達になってくれるだろうか。インテリ系という言葉だけでスマートな男前を想像してしまっているが、あわよくば友達以上の関係になってくれるだろうか。

 長年の願いが聞き入られたのだと思うと気持ちが逸り、俺は二本目の煙草を半分以上残して事務所に戻ることにした。

「今日からアルバイトで入ってくれることになった、新島将造にいじましょうぞうくんだ。分からないことはどんどん教えてあげてください」

 しかし朝礼で所長から紹介されたのは、およそ二十二歳とは思えない出で立ちの「若者」だった。小柄で俺よりも背が低く、黒髪はぼさぼさで、正面を向いていても眼鏡がずれている。声が小さく、落ち着きなく視線を動かし、一目で童貞だろうなと分かる典型的な「若者」だった。

「今日は幸田さんが休みだから、そこのデスクを使ってもらおう」
 嫌な予感はしていたが、俺の隣の席だ。必然的に俺が仕事を教えることとなる。
「桐山くんもそろそろ自信がついてきた頃だと思うから、新島くんに一通り業務を教えてあげてください。桐山くんでも分からないことは、田中さんに聞くように」
「分かりました」

 結局は、俺が新島将造に抱いた第一印象を他の人達も感じたということだ。何となく俺と田中さんに全てを押し付けられたような気がして、嫌な気持ちになる。
 それでも任されたことは責任を持たなければならないということで、俺はにこやかに笑って新島将造を隣に座らせた。

「桐山宇咲です、よろしく。俺達、年齢一緒なんだって。仲良くやろう」
「はあ」
「俺のことは宇咲、でいいから。俺も将造って呼んでいい?」
 規則なんて有って無いようなものだから、社員の中にはフランクに名前で呼び合う人達もいる。信頼できる仕事仲間という気がして、俺は密かにそれに憧れていた。

「はあ」
「じゃあ、将造。パソコン立ち上げて、朝はまずメールを全部受信するんだ。受信し終わるまで結構な時間かかるから、出勤したらまずメール受信をして、その間に一服したりするといいよ」
「はあ」

 分かっているのかいないのか、緊張しているのか、それとも極度の人見知りなのか。新島将造はこちらが何を言っても「はあ」としか返さない。いや、本人は「はい」と言っているつもりなのかもしれない。相手のことをよく知りもしないうちに決め付けるのはよくない。

 しかしその後も彼は「はあ」としか言わず、昼休みに入る頃には俺の精神は既に折れかかっていた。

「昼飯、買ってきた? この辺は食事する場所ないから、みんな休憩室で食べてるんだけど」
 将造はそこで初めて真っ直ぐに俺の目を見て、首を横に振った。
「買ってきてません」
「マジで。ここからだとコンビニも遠いし……どうしようか」

 面接の時に一度来ているのだから、ある程度は分かるだろう。定食屋がなければコンビニで買うしかないし、地元や駅周辺のコンビニに寄ってから来ることもできただろうに。