第6話 -6-

 皇牙が天井を仰いで両手を広げ、それから、スタッフルームのドレッサーに常備されているウェットティッシュを数枚抜いて俺の乳首を拭き出した。
「汚ねぇ毒で亜蓮を穢しやがって……!」
「あ、ちょ、ちょっと待て……優しくっ……」
「口も開けろ、亜蓮」
「く、口にティッシュ詰めるのは嫌だっ」
 むっと口を閉じてかぶりを振ると、皇牙がようやくティッシュを丸めて投げ捨てた。

 ソファに座った俺の肩に、皇牙の手が乗せられる。
「お前のいた次元ではありえないことなのか分からねえが、……この世界では闇示のように、目的のためならどんな手段でも使ってくる奴らがいる。見た目には分からねえから、誰に気を付けろとは言えねえが……」
「……俺の世界にも大勢いるよ、そんな連中は」
「取り敢えず闇示にはもう近付くな。もう一度言うが、あいつのタランチュラは麻薬じゃねえ、毒だ。効果が凄まじいのと同じで、一度に摂取し過ぎれば確実に死ぬ」

 あの心地好いキスの謎が解けた瞬間だった。
 ヘロインだって過剰摂取で死ぬことはある。そのタランチュラというのがどれくらいで致死量になるのか分からないが──俺はどれだけ彼の唾液を含んでしまったんだろう。今こうして意識があるということは、恐らく死ぬことはないだろうけれど……。

 俺はまたしても皇牙に救われたということか。

「俺が薬を徹底的に禁止しているのは、過去にウチのダンサーが立て続けにタランチュラの毒にやられたことがあったからだ。……証拠は出てねえけど、闇示の仕業であることに間違いねえ。何度ガサが入っても摘発されねえから、どうにかして隠してるんだろうが……」

 忌々しそうに顔を顰める皇牙。俺は肩に置かれた皇牙の手を取り、そのまま立ち上がった。
「助けてくれてありがとう、皇牙。……カッコ良かった」
「真剣に聞け、亜蓮。あいつは狙った男を毒漬けにして、自分の男娼館で死ぬまで働かせるような奴なんだ」
「俺は大丈夫。もう奴には近付かない」
「当然だ、二度とお前には──」
「俺は踊れればいい。それだけでハイになれるから、薬も毒も必要ない」
 皇牙の青い眼が、ふっと柔らかくなる。
 体が軽くなる感覚があって、俺は目を閉じ、……皇牙に口付けた。
「亜蓮、……」
「中和して」