第6話

 今日から俺はこのクラブで正式に踊る。昨日急遽立ったステージのような大きいものではなく、まずは観賞用の狭い場所でのストリップ。ステージはそれ相応の練習が必要で、今は俺よりもステラのような上手いダンサーが立つべき場所なのだ。

 この時間俺に割り当てられたのは、円柱型の水槽の中だった。勿論水の中で踊る訳ではない。内部が二重構造になっていて、外から見れば水槽の中で踊っているように見えるだけだ。ランダムでライトの色がピンクやブルーに変わり、きらきらと輝く水泡の演出もある。

 この水槽はエントランスホールから左右に分かれた大階段のカーブの内側に設置されていて、俺は右。左側の水槽では褐色肌にTバックの青年が躍っていた。
「堪んねえ、すっげえ良いケツしてる」
 背を向け、男達の集団に尻を振ってみせる褐色の青年。確かに良いケツだ。振り方も上手い。

「おい、こっちは例のチェーン・ストリッパーだぞ」
「腰付きがエロいな。一発ハメてえぇ」
 入口の水槽は人目に付きやすく、入店してまず初めに客を出迎えるための大事なストリップだ。全ての客の目に触れる分、卑猥な言葉も多く受ける。──勿論、野次や中傷は許されない。ダンサーを不快にさせようものなら、すぐに黒服に摘まみ出されるというシステムだ。

 俺は気楽に踊っていた。薄いガラス越しにコポコポと聞こえる水の音が心地好くて、体も心もリラックスできる。交代の時間が来るまで休まず踊り続けなければならないと聞いた時はキツい印象を受けたが、限られたスペース内では派手に動き回る必要がないため、それほど苦にはならない。

 ──むしろあっちの方が大変そうだな。

 エントランスゲートの左右にはレザーのTバックを穿いた男が一人ずつ、一メートルほどの台座の上に立って艶めかしいポーズを取ったまま彫刻のように停止している。俺も初めはマネキンかと思っていて、微かに息をしているのを見た瞬間に度肝を抜かれた。

 このクラブにいる従業員は全てがアートであり、客もまた参加型のアーティストになる。西洋の姫みたいなドレスを着て絡み合う美しい青年も、四つん這いになった男の上に座って煙草を吸っている男も。そして、俺も。

「美人だなぁ……見惚れちゃうよ」
「目の保養、目の保養……」
 気付けば少し真面目っぽい学生風の二人組が、かぶりつきで俺を見ていた。背伸びしてナイトクラブに来てみたは良いが、入口でこんな足止めされてるんじゃ奥に行ったら目が回ってしまうんじゃないだろうか。
「………」
 俺はクスっと笑って、二人組に向け縦に大きく脚を開いた。
「おぉぉ……!」
「ぎ、ぎりぎり……!」
 更にサービスとして、ストレッチの効いたショートパンツの裾をちらりとずらしてやる。
「ひょおぉぉ! み、見え……!」
「ありがたや……ありがたや」
 目をハートマークにさせて仰け反る二人の反応が可愛くて、俺はまた小さく笑った。