第5話

「星は僕だけで、と思っていたけど……。ニコラの手を引いて飛んであげようと思ったのに、……薬なんて使って、デビューステージを台無しにして……軽率なことをしたね」
「ご、ごめんよステラ。どうしても緊張して、俺……怖くってさぁ」
「可愛い僕の弟。次こそちゃんと踊れるように、みっちり鍛え直しだね」
「うん……」
 俺は溜息をついて床に座り込み、目の前の「兄弟劇」を見つめていた。

 時刻は昼過ぎ。ダチュラの準備があるというので皇牙について来たは良いが、俺には特に何もすることがなく、こうしてスタッフルームでゆっくりしているのだが……
「ニコラ。自分に翼が生えたと思い込むんだ。体が軽くなって、重力がなくなる」

 スタッフルームの西側の壁はダンサーのための鏡張りになっている。その鏡の前に設置されている練習用らしいポールを握ったステラが、ふわりと両足で床を蹴った。
「………」
 昨日俺がやったブラスモンキーだ。俺よりもずっと動作が軽く、優雅で、美しい。

 ステラはニコラの双子の兄だと、ついさっきライに紹介された。ニコラよりもだいぶ早くデビューしたらしく、ダチュラでは一番人気のあるポールダンサーなのだとか。
 顔立ちはニコラにそっくりだけど、似ているのは顔だけだった。髪の色は淡いブルーで、感情豊かなニコラと違ってステラはあまり表情を変えない。喋り方も抑揚がなく、何だかふわふわした精霊みたいな少年だ。

「この状態でポールから手を離して、脚の力だけで体を支える」
「お、落っこちないのか?」
「しっかり支えていれば大丈夫。レッグハングの練習がばっちりできてれば簡単」
 それから、とステラがポールに絡んだまま流れるように体勢を変えた。右の太股と膝の裏でポールを挟んで固定し、体を床と平行に持ち上げる。

 左側の脚を曲げて膝と脛をポールに付け、両手を大きく広げるステラ。まるで体を真横にして、ポールの上に膝で立っているかのようだ。ポールに重力が働いているとしか思えないそれは、れっきとした「ニーロック」「ニーホールド」というトリック技だった。文字通り、膝と太股の力だけで体をポールにロックさせるのだ。

「ステラ! 凄い!」
「これも簡単。すぐ出来るようになる」
「ほ、本当かなぁ……俺にも?」
「ニコラはポールダンサー志望じゃなかったもんね。でも練習すればそれだけ踊りの幅も広がるよ。ストリップやるなら、絶対ポールもマスターした方がいい」

 ニーロックの状態のまま、ステラが俺を見て言った。
「……出来る? チェーン・ストリッパー」