第3話

「おお、噂をすれば亜蓮! 皇牙に歯向かったんだって? こっち来いよ!」
 空のグラスを回収しつつ周りを警戒していたら、スーツ姿のライがソファから手をあげて俺を呼んだ。その隣には皇牙もいて、まだ怒っているのか仏頂面で腕組みをしている。

「別に歯向かってない。自分の意思を言っただけだ」
「いいと思うよ、意思表示は大事だしね。……で、皇牙もそんな亜蓮を買ってるんだろ?」
「さあな。文句ばかり垂れる奴か、それとも屈辱をバネに奮闘するか、お前がどっちか分からねえうちは様子見だ」
 無視して、俺はライの手から空のグラスを受け取った。

「皇牙、初日から厳しいんじゃない? 俺も見てたけど亜蓮はちゃんと働いてるよ。グラスを渡してグラスを回収して、また運んで渡して、群がる男は無視して、……ちゃんとやってる」
「酔い過ぎだ、ライ」
「あはは。スピリタスいい気分」
 赤ら顔のライがソファにもたれて、皇牙の肩を指でつついた。

「……あんたらは、仕事しないで飲んでるだけなのか」
 俺が問うと、ライが「違うよ」と言って脚を組んだ。
「これからショーがあるから、それのチェック。今日の子は初めてのショーだから、俺達が見ててやらないと」

 初めてのショー。恐らくニコラのことだ。さっき見たばかりの大きなツリ目とライトパープルの髪を思い出し、俺はソファの目の前にあるステージに視線を向けた。

 銀色の円形ステージは床よりも少し高めに設計されていて、その中央から天井まで銀色のポールが伸びている。フロアの各所に設置された一人用のステージとは違い、ここのは三人くらいが乗れる大きさだった。
 ステージから少し距離を開けて、その周りを幾つかのソファがぐるりと囲んでいる。オーナーの皇牙やちょっとしたVIP客は、特等席で酒を飲みながらニコラの踊り──ストリップを観賞できるということか。

 茫然とそこに立っていると、皇牙が腕についたマイクのようなものに口を寄せて誰かに言った。
「そろそろチビ達を寝かせてくれ。トイレ行かせるのを忘れるなよ」
 チビ達。恐らくは外やキッチンにいた子供達のことだ。それについて何か言おうと思ったが、俺が口を開くより早くライが俺の手を取って皇牙に顔を向けた。

「皇牙。亜蓮も少し休憩させてあげれば? もうすぐショーも始まるしさ。見学ってことで」
「……そうだな。亜蓮、隣に座れ」
「おいで、亜蓮」
 ライがソファから尻を持ち上げ、俺のために一人分のスペースを開ける。立ちっぱなしで足が疲れていたのもあり、俺は遠慮なく皇牙とライの間に腰を下ろした。

 何より、ニコラの踊る姿が見たかった。久々に他人のストリップが見たかった。俺もやっていたことなのだ。この知らない街の知らないクラブでどんなストリップが行なわれるのか、見てみたい。