第2話 -3-

「……一階はどうなってる?」
 フロアは吹き抜けで、一階エントランスをぐるりと囲む形で幅の広い階段が設置されている。俺達が今いるのは二階。入る時に見た感じだと一階も同じようなことになっていたが……
「一階もちゃんと見てくれよ。階段は外側の端を使って、ウェイターのうちは中央を歩くのは禁止だ。客とすれ違う時には必ず頭を下げること。ここはまともなお客様しか入れねえクラブだが、万が一妙なのがいたら必ず近くの従業員に知らせろ」

 取り敢えずは酒を持ってフロアを動き回るだけ。簡単な仕事だ。
「それじゃあ早速頼む。このトレイのグラスが無くなるまで、見学を兼ねて歩き回って来い」
 シルバーのトレイには細長いシャンパングラスが六つ乗っている。慎重に歩かなければ倒れてしまうかと思ったが、持ってみると意外に重くて安定していた。グラスを運ぶなんて初めての経験だが、ゆっくり歩くなら大丈夫だろう。

 ……それにしても、本当に妙なクラブだ。

「なあ、そんなの忘れていいって。俺と楽しむために来たんだろ」
 ソファにもたれてチェリーを食べている二人。
「ん、……駄目だってば、あ……もう」
 立ったまま股間を擦り付け合っている二人。
「あぁ……もっと、あ……すご、い……」
 ガラス越しのステージで絡み合う三人。

「………」
 タイなどでは男同士のセックスを見せるショーがあるけれど、本番無しとはいえ人前でここまで大胆に絡み合うなんて俺にはとても考えられない。そもそもセックスは禁止と言っても、こんなに濃厚に絡み合っていたのではもはやセックスと変わらないんじゃないだろうか。
 ……どちらにしろこんな場所、子供には悪影響でしかない。

「新顔だね。シャンパンを二つ貰っていいかな」
 気付けば横に客が立っていて、突然声をかけられた。
「あ、ああ……どうぞ」
「ありがとう」
 頬にキスをされて殴りたくなったが、トレイを持っているため手が出せない。仕方なく再び歩き出し、真っ直ぐ前方だけに顔を向けながらも横目で色々と見て回った。