第13話 海の向こう側 -7-

 怒涛の夜が過ぎ、それから数日後──。

「うううう、寒い……朝って何でこんなに寒いんだろ?」
「彰星、おはよぉ……。さっむいねぇ」
「おはようございます雷童さん、……あううう、早く熱いお味噌汁が飲みたい……」
 朝食の時間になり廊下で雷童さんと合流し、俺達は冷たい廊下をつま先で歩きながら食堂へ向かった。
「へへ、でも今日からお義父さんが食堂にストーブを置いてくれたんだって。風雅は一足早くあたりに行ったよ」
「えっ! やったぁ! 早く行きましょう雷童さん!」

 一階北にある食堂に駆け込むと、なるほど、ストーブの周りには兄さん達が群がっていた。身を縮こまらせて円柱型のストーブを囲む兄さん達は、何だか日向に集まる猫の集団みたいだ。
「あ、あれじゃあ入る隙間がありません……」
「風雅。もう充分温まっただろ、俺と彰星もあたらせてよ!」
「抜かせ、こういうのは早い者勝ちだ」

 ぶううと二人で口を尖らせていると、小椿さんが俺達の腕を引いて自分の前に座らせてくれた。
「温かい!」
「こうするともっと温かいだろ!」
 背後から俺と雷童さんの肩を抱く小椿さん。
「小椿、お父ちゃんみたいだなぁ」
「温かいです小椿さん、ありがとうございます!」
「へへ、いつぞやの夜は彰星の口利きで良い思いさせてもらったからなぁ」
「あ、……あの時の」
 良かった。小椿さんもあの後ちゃんと、定吉さんの所で休憩できたみたいだ。

「風雅も世話になっただろうに」
「う、うるせえな小椿。俺様は冷え性だから人一倍温めないといけねえんだよ」
 俺と雷童さんは小椿さんの懐で温かさに目を細め、そんな俺達を見て笑っているおばさん達の配膳の音を聞いていた。

「おおい、お前ら。手紙が届いてるぞ」
 番頭の漸治さんがやってきて、それぞれの兄さんの名前を呼ぶ。
 呼ばれた兄さん達は受け取った手紙を見て一喜一憂していた。
「ほほぉ、旦那様からの恋文だ」
「俺は故郷から。親戚の姉ちゃんが結婚するから金送れってさ」
 当然、俺には手紙を送ってくれる人はいない。天凱さんもわざわざこの距離で手紙を出すことはしないし、親戚のおばさんもまさか俺が大店の娼楼にいると思っていないので、お金の催促をしてこないのだ。とっくにどこかで野垂れ死んでいると思われているかもしれない。

「………」
 そんな中俺は、座布団に正座して手紙を読んでいた一郎太さんの手が震えているのに気付いた。
「一郎太さん、大丈夫ですか?」
「……彰星……」
「っ、……」
 茫然と顔を上げて俺を見た一郎太さんの目に、涙が浮かんでいる。