第13話 海の向こう側 -5-

 定吉さんは女性のように頬を赤くさせながら、一郎太さんとの出会いを話してくれた。
「初めて会ったのは五年前で、丁度一郎太がここに売られてきた年だった。その時は僕もまだ若くて稼ぎが少なかったから、なかなか会いに来られなかったけどね。──一目惚れだったよ。あんなに美しい男がいると知って、もう女性を抱けなくなってしまった」
 ふふ、と俺は心の中で忍び笑いをした。確かに一郎太さんの美しさなら、女性を好きな殿方さえも虜にできる。

「おまけに頭が良くて、心も優しいだろう。名家のお坊ちゃんみたいな彼がどうして売られたのか、気になって仕方なかった」
「……言われてみれば、そうです。一郎太さんはお名前から察するに、恐らく長男でしょうし……」
 大抵は跡取りとなる長男を残して、それより下の兄弟を売るというのが「売る側」の定石だ。風雅さんも雷童さんも次男だし。俺みたいに貧しい土地の出身なら、役立たずの一人っ子は売られてしまうことも多いけれど。

「理由を訊いたら、故郷で行なっている商売の経営が芳しくないらしくてね。一郎太は自ら稼ぎに出ると名乗り出たそうだよ。娼楼で働くということは、家族には伏せてある」
「そ、それじゃあご家族は一郎太さんが遊廓にいるって知らないんですか」
「芸の道を進んでいると言ってあるそうだ。故郷へまとまった金を仕送りしているのに、……まさかその翌年に次郎太が、四年後には三郎太までもが売られるとは思ってなかったみたいだね」

 次郎太は運良く一郎太さんの元へ来ることができた。娼楼に来たことを運良くと言っていいのかは分からないけれど、少なくとも家族と一緒にいられる。

「旦那様、三郎太くんの行方を探してあげているんですか……?」
「ああ。仕事柄、色々な土地に行くことが多いから。行く先々で探してはいるが、なかなか上手く行かなくてね……」
 定吉さんの目は寂しそうだ。本当に一生懸命、忙しい仕事の合間を縫って三郎太くんを探してくれているのだろう。

 俺は定吉さんに酌をしながら、彼が見かけた「日本人の男の子」について訊ねてみた。
「一瞬見ただけだから自信はないが……一郎太に良く似た美しい子だった。そこはインドネシアという、素晴らしく海が綺麗な国でね。その子は現地の人らしい白髪のお爺さんと手を繋いで、マーケットを歩いていたんだ」
 少なくとも無理矢理歩かされていた様子ではなかったこと。男の子が笑っていたこと。一緒にいたのは身なりの良い、金持ち風の老人であったこと。
 もうその子が三郎太くんであれば良いと思うほど、それは幸せそうな情景だったと定吉さんが言った。

「もしまたインドネシアに行ったら、どうにか彼を探し出したいと思っていてね」
「はい。一郎太さんも喜ぶと思います!」
「………」
 定吉さんが視線を落とし、あぐらを組んだ自身の膝を強く掴む。
「……定吉さん?」
「彰星といったね。……今から話すことは、一郎太には絶対に秘密にして欲しいんだが」