第13話 海の向こう側 -2-

「どうにか三郎太の売られた先を探ってもらっている。もしも良い環境で生きているならそっとしておいてくれと言ってあるが、……」
 一郎太さんはその先を言わなかった。その先を口にしたら、きっと心が砕かれてしまう。

「次郎太は俺と一緒の場所に来られて良かったが、……出来ればこいつにも客を取らせたくはないな」
「当然です。まだ年月があるから、今は大丈夫ですけど……でも」
 言って良いものか少し迷った後で、俺は次郎太の寝顔を見ながら呟いた。
「でも次郎太は、一郎太さんや三郎太くんのためなら……って、思う子ですよね」
「ああ、その通りなんだ」
 他の兄さん達が家族のために働いているように、次郎太もきっと兄弟のために覚悟を決める日がくる。それが分かっているからこそ一郎太さんは辛いのだ。

「なるべくそうならないように、俺が気張るしかない。この体を使って、少しでも条件の良い旦那に見初められるようにな」
「一郎太さんは綺麗なだけじゃなく、頭も良いし、踊りも三味線も上手ですから」
 だからきっとお金持ちの優しい旦那様が現れて、次郎太も三郎太くんも一緒に引き取ってくれるはず。……そんな励ましは、安易に口にはできない。

「すまないな、こんな寒い夜に気の滅入るような話をしてしまって。……彰星には不思議と、何でも話してしまいたくなる」
「いえっ、そんなことないです。話してもらえて良かったです……」
 ストーブありがとうございました、とお礼を言ってから俺は立ち上がった。
「おやすみなさい、一郎太さん」
「ああ、おやすみ」
 再び廊下を歩き出し、西側にある自分の部屋を目指す。
 体は温まっても、心の中は少しだけ冷えていた。
「………」
 またあの二人が、三郎太くんと会えますように。三郎太くんが辛い目に遭っていませんように。
 こんな時はいつも目を閉じ、あまてらす様にお願いする。
 あまてらす様お願いです。どうかどうか、三郎太くんをお守り下さい──。

「彰星さん、どこへ行かれてたんですか? 起きたらいないので驚きましたけど……」
 部屋に戻ると、布団の上で身を起こした淡雪がまだまだ眠たげな目を擦っていた。
「淡雪、起きちゃった? トイレ行ってただけだよ、大丈夫。寝てていいよ」
「彰星さんが漏らさないように、トイレの時は俺を起こして下さいって言ったのに……」
「お、俺だってトイレくらい一人で行けるよ」
 しっかり者の淡雪も、まだ十二歳。売られてきた時の年齢は知らないけれど、俺よりずっと幼い頃から遊廓にいることだけは確かだ。

 皆が持っているそれぞれの「事情」は全て、大人から押し付けられたもの。

 いつかそんな事情なんて関係なく、全ての子供達が家族や友人と楽しく暮らせるようになるといい。