第12話 「ふたり」 -3-

 熱くなった頬に天凱さんの唇が触れる。ベッドという台の上の布団に寝かされて、頬から鼻先、唇へと優しく口付けをされる。
 キモノのせいで動きにくいから、俺はされるがままだ。胸が激しく高鳴って、恥ずかしくて嬉しくて、もう目も開けていられない。

「彰星。俺はお前に何でも与えたいと思っているし、お前もそんな俺を信頼して好きにさせてくれているな」
「……え、……?」
 言われてつい目を開けてしまった。視界いっぱいに天凱さんの顔があって、またしても頬が熱くなる。
「だけど今日だけは『寿輪楼の彰星』ではなく、普通の男の彰星だろ。だから今日は、今だけは、お前に我儘を言ってもらいてえんだ」
「そんな、俺は……」
「どこに触れて欲しいか、どうされたいか、全部俺に教えてくれ」

 そんなこと言えないって、天凱さんなら分かっているくせに。男遊である俺が我儘を言う資格がないからとか、そういうのじゃなくて……俺の性格上、恥ずかしいことを口にできないと……分かっているくせに。

「……意地悪です、天凱さんは」
「意地悪じゃねえよ。好きな奴の我儘を聞きたいっていう、俺の素直な気持ちだ」
 言いながら、天凱さんの指が俺の前帯を解く。仕事用の着脱が簡単なキモノじゃなく余所行き用のため、少しだけ複雑な結び方になっている帯だ。
 この帯が解かれたら、きっともう止まらない。全て淡雪が着付けてくれたから、俺は帯の結び方なんて知らないんだ。

「天凱さん……」
「うん?」
 俺は恥ずかしさに心臓が止まってしまうのを覚悟で、視線を逸らして呟くように言った。
「天凱さんはいつも、俺に気を遣って優しく、優しくしてくれます……。だけど今日は、その……天凱さんが許してくれるならの話ですけど……」
「………」
「獣のように激しく、お互いを求め合ってみたいんです……」
 何もかも、嫌なことを全部忘れるほどに。俺の体に一生残る天凱さんの証を刻むために。
 明日から始まるいつもの日々を、また会う時まで乗り越えられるように。

「………」
「……天凱さん?」
 俺の上で石のように固まった天凱さんの顔は、もしかしたら俺以上に真っ赤になっていたかもしれない。眉間に皺を寄せて目を細め、唇を噛んで、額には汗も浮かんでいる。
「あ、あの……ごめんなさい、変なこと言って……」
「彰星っ──!」
「う、うわあぁっ!」
 帯を乱暴に解かれて床に放られ、キモノの前を勢い良く開かれる。
「天凱さんっ……!」
「お前は……本当に、俺を煽る天才だな」
「だ、だって天凱さんが我儘を言えって……! んっ……」
 唇を塞がれ、荒々しく口内をかき回される。柔らかくて熱い天凱さんの舌は、さっき分け合って食べた水飴の甘い味がした。

「んん、っ……ふ、……」
 そのまま剥き出しの薄い胸に天凱さんの手のひらが触れ、弄るように強く撫で回される。
「んう……、ん……」
 舌を絡ませながら、俺は天凱さんの甚平の紐に手を伸ばした。自分から脱がせようとするなんて初めてのことだった。とても似合っているからこのままでも良いと思ったけれど──やっぱり、お互い裸で触れ合いたい。