第12話 「ふたり」 -2-

「元気だよなあ、子供らは。悪ガキだけど、ちゃんと大人にはない純粋な心を持ってる」
「カメ、どうしよう……水槽もないのに。タライで飼えるかな?」
 目線の高さに袋を持ってきて、小さなミドリガメの顔を見つめる。お前も売られる先は分からない子か、と心の中で呟けば、天凱さんが袋を優しくつついて俺に言った。
「俺も弥代に来て初めての祭りの時は、親父がカメをすくってくれたっけなぁ。何年か前に叔父さんの子供にねだられて譲っちまったけど、今も生きてるらしい……」

 そこまで言って、天凱さんが俺の背中を叩いた。
「俺んちにまだその時の水槽があるはずだ。それ使えよ、彰星」
「えっ! いいんですか?」
「ああ、ウチでは使わねえからよ。今なら親父もお袋も家にいねえし、……」
「………」
「あ、……いや。早いところそいつを水槽に移してやった方がいいんじゃねえかって、そういう意味で……」
「お、俺はここで待っています。……ご両親がいらっしゃらない天凱さんのお家に、お邪魔する訳にはいきませんから……」

 行くこと自体は問題ない。
 ただ、寿輪楼を通さずに性行為をするのは固く禁じられている。
 俺はそれを充分過ぎるほど理解していた。

「手は出さねえよ。約束するって」
「いいえ。あの、……その、……俺の方が、我慢できそうにないんです」
 二人きりになったら止められなくなる。今の時点でも天凱さんに抱いてもらいたくて堪らないのに、初めて訪れる天凱さんの家で、部屋で──天凱さんの生活の匂いに触れてしまったら、絶対に歯止めが利かなくなる。
「……彰星よう」
 握った手に、天凱さんの力が籠められる。
「ご、ごめんなさい……」
「そんなこと言われて、逆に俺が燃えねえとでも思ってんのか?」
「あ、う……」

 *

 駄目だよ。もう問題は起こさないって、お義父さんと約束したのに。
 知られたら天凱さんも悪者にされてしまうのに。

「黙っていればバレない……っていうのは、お前には通用しないもんなぁ」
 ずっと憧れていた一ノ瀬堂の二階にある、天凱さんの部屋。寿輪楼の俺の部屋とは違って洋風で、布団も床ではなく、大きな台の上に敷かれている。
 カメの入った水槽を前に立ち尽くした俺は、もじもじと手を合わせながら俯いていた。

「取り敢えずこいつにも家ができて一安心だな。明日、寿輪楼に水槽ごと持ってくよ。その時にエサも付けておくから、毎日可愛がってやれ」
「……本当にもう、何から何まで……すいません」
「何だその他人行儀な感じ。旦那の部屋で緊張してるのか?」
「いえっ、いいえ……!」
 焦る俺を見て笑う天凱さんが、ちょいちょいと手招きして俺を布団の上に座らせた。

 そうして熱くなった俺の耳に、低い声でそっと囁く。

「心配するな。こうなることを見越して、矢多丸さんには事前に金を払っている。昨日の時点でな」
「えっ、……えぇっ?」
「『規則を破るという背徳感の中で俺に抱かれるお前』を楽しみたかったんだが、このままだと集中してくれそうにねえからなぁ」
 驚いたのと、どこかホッとしたのと、また意地悪されたという恥ずかしさもあったけれど。……それより何より、お義父さんがお金であっさりそれを承諾したことに脱力してしまった。「丸一日見世は休みだ」と大々的に発表していたのに。
 もちろんお義父さんがそれを許したのは、申し出た相手が天凱さんだったからだろう。

「当然、お前に拒まれたら文句つけて返金してもらうつもりだったがな!」
「お、俺はちゃんとお断りしましたよ! 天凱さんが強引にっ……」
 静かに、ほんの少しだけ……唇が塞がれる。
「彰星」
「あ、……」
「俺が贈ったキモノを脱がせる権利は、俺にしかねえだろ?」
「っ……、……」
 もう、そんな台詞はずる過ぎるんだってば──。