第11話 思いがけない1日 -2-

「素直に若様におねだりした方がいいですよ、彰星さん。こういう時のための『旦那様』なんですから」
 部屋に戻ってから淡雪に相談すると、きっぱりそう言われてしまった。
「で、でもさぁ……キモノをねだるなんて、図々しいっていうか……」
「だって彰星さん達は自由にできるお金を持っていないんですよ。自分でキモノを買うとなったら借金に加算されてしまいます。若様に買ってもらうしかないじゃないですか」

 淡雪の言うことは理解できるし、それが俺達にとっての「普通」なのだとも分かっている。
 だけど天凱さんは毎回の俺の揚げ代だけにとどまらず、警察に払うお金の一部を負担してくれたり、数年後の身請けの時に残りの借金を払うとまで言ってくれているのだ。これ以上余計なお金を遣わせるなんて、心が痛い。

「いいよ、俺は。初見世の時に用意してもらったキモノがあるからさ。あれだってまだまだ新しい物だし」
「……彰星さんは、もう少し図々しくなった方が良いくらいです。雷童兄さんみたいに、素直に甘えた方が可愛げがあると思ってもらえますよ」
「物をねだるって、何か苦手なんだよ……」
 変な所で臆病なんですね、と淡雪が腕組みをして首を捻る。

 ……そんな俺の元に天凱さんがやって来たのはその日の昼過ぎ、張見世には早過ぎる時間帯だった。
「あ、彰星っ、聞いたぞお前、……あじさい祭りで寿輪楼の屋台をやるんだろ……」
「天凱さんっ? どうしたんですか、そんなに汗をかかれて──」
「安心しろ彰星。新しいキモノくらい、俺が用意してやる……!」
 恐らく俺達の屋台が出ると聞いて、一ノ瀬堂から寿輪楼まで全力疾走してきたのだろう。その腰には白くて長い前掛けを付けたままだ。

「だ、大丈夫ですよ天凱さん。俺、ちゃんと着る物持ってますから」
「駄目だっ!」
「ヒッ──!」
「俺の彰星が当日は大勢の男の目に触れるんだぞ、『俺の物』という証が必要なんだっ。この一ノ瀬天凱が彰星の後ろ盾に付いているということを、群がる野郎共に知らしめる必要がある!」
 ──意外と独占欲が強いんだなぁ。
 寿輪楼の玄関先で拳を握って叫ぶ天凱さん。そんな彼を、通りを歩く人達がちらちらと見ている。

「お前に一番似合うやつを選んでくるぞ。五日の夜までに用意しておくから、楽しみにしてろ」
 少し恥ずかしかったが有難いのも事実だ。天凱さんが選んだキモノを着て祭りに参加できるなんて、……泣けるくらい嬉しい。
「当日は俺も祭りに行くし、少しでも一緒に回れたらいいな」
「……はいっ!」
 俺は天凱さんの手を握り、満面の笑顔でそれに答えた。