第10話 しあわせ -6-

 その後は食堂で寛いでいた兄さん達の元へ行き、俺が布団部屋にいる間に差し入れてくれた沢山の贈り物に対するお礼を言った。
 風雅さんも雷童さんも、小椿さん一郎太さん、銀月さんに牡丹さんも。
 皆が笑って俺の「謹慎明け」を喜んでくれた。

「後ね、彰星。俺達みんなでお金出し合って買った物があるんだよ」
 そう言って、雷童さんが綺麗な花柄の紙に包まれた箱を長机の上に乗せる。
「ええっ、俺ばっかりもらってしまって……!」
 胸を高鳴らせながら包みを開ける。……中には、一冊の厚みのある帳面と高そうな筆が入っていた。

「こ、これって」
「彰星の読み書きの練習にもなると思ってさ。ノートと万年筆。それで今日あったこととか、嬉しかったこととか、日付入れて記録して行くといいよ」
「ノート、と……万年筆……」
「日記というやつだ。俺も付けている」
 一朗太さんの言葉に、思わず目を見開く俺。
 まともに字も書けなかった俺の、初めての日記。この帳面に俺の思い出が全部、全部、保管されて行く。
「あ、ありがとうございます……! 大事に使います、……」
「頑張ってね彰星」
「う、うあ……ああぁ……」
 大事な贈り物を胸に抱きしめて、俺はわんわん泣いてしまった。兄さん達だって見世に借金があるのに、俺のためにここまでしてくれるなんて。
 俺の傍にいてくれるのは天凱さんだけじゃない。こんなに優しい人達に囲まれて、俺は本当に幸せ者だ。

「泣くんじゃねえよ、湿っぽくなるだろうが」
「ご、ごめんなさっ、……ふうが、さん……。こんなの俺、初めてでっ……」
「おおよしよし、泣きてえ時は兄さんの広い胸を貸してやるぞ」
「うわっ!」
 強引に俺の頭を抱きしめてくる小椿さん。その厚い胸板に顔面が思い切り押し付けられ、息が出来ずに手足をバタつかせてしまう。
「ふぐっ、ん、ぐっ……くるし、です……! こつばきさんっ……」
 その姿を見て、皆が笑った。

 がまんを覚える。人のハナシをきく。
 兄さんたちがくれた物をすべて覚えておく。
 天凱さんがはずかしいイジワルをした。

 覚えたての拙い文字で一つずつ、丁寧にノートに記して行く。
 忘れてはいけないことと、忘れたくないこと。似ているようで少し違うこの二つのことを、足りない頭で必死に思い出しては書き込んで行く。
 このノートがいつか俺の字でいっぱいになったら、天凱さんや兄さん達にも見せてあげよう。

 その時は皆で笑って思い出話ができるように。
 この遊廓で過ごす日常に、一つでも多くの幸せを見つけよう。

 第10話・終