第10話 しあわせ

 天凱さんが来てから程なくして、俺の「罰」は終わった。
 布団部屋から出た俺に淡雪が泣きながら抱き付き、ふらついた俺を風雅さんと小椿さんが支えてくれた。

 俺が布団部屋に入れられてから三日近く経過していたみたいだ。食べ物はもちろん水を飲むことも許されなかったから、本当に辛かった。
 布団部屋を出てまず初めにぬるい水を飲ませてもらい、雑炊を少しだけ口に入れ、淡雪に体を拭いてもらった。充分な広さがある布団部屋には用足しのためにタライが置かれていたが、それは誰が片付けたんだろう。

「良かったよぉ、彰星!」
 顔をぐしゃぐしゃにした雷童さんを見て笑いそうになったが、彼が天凱さんに報せてくれたのを思い出して結局俺も泣いてしまった。

 それから正式にお義父さんに謝罪した時、勇蔵のことを聞いた。
「物凄い剣幕だったから一時はどうなるかと思ったが……何とか署長さんと話がついた。今回の件で上からのお咎めは無しだ。だいぶ金はかかったがな。最後には『道楽息子が迷惑をかけた』と、逆に謝られてしまったぞ」
「お義父さん。ごめんなさい。……ありがとうございます」
「全く。ただの世間知らずの小僧だと思っていたのに、変な所で肝が据わってるんだからなァ。こっちはヒヤヒヤさせられっぱなしだ」
「ごめんなさい……」
「今回の件への罰は済んだが、お前はもう少し冷静でいることを心掛けろ。怒ったってお前らには何の得もねェんだ。今回みたくスキンも使わず致そうとする客や暴力客がいたら、大声を出せば楼内の誰かしらに聞こえるだろう。どこの娼楼でも男衆を雇ってるのは、お前らを守るためなんだからな」
「はい……」

 縮こまる俺をしばらく見つめた後で、お義父さんが手を叩いて立ち上がった。
「よし、この話はもう終わりだ。──彰星。今日からまた客を取ってもらうからな。張見世までに少しでも休んでおけ」
 頭を下げてお義父さんの部屋を出ると、廊下には淡雪が待っていてくれていた。
 俺も淡雪も何も言わず廊下を歩き続ける。自分の部屋へ入り襖を閉めたところでようやく腹の底から溜息が出た。……取り敢えずは、布団部屋から無傷で戻って来られたのだ。

「彰星さん。体を揉みほぐしますので、横になって下さい」
「うん、……」
 視線を落とした畳の上には、俺がいない間に兄さん達が置いてくれた飴玉や金平糖、他にも色々な物があった。
 飴は風雅さん、花の髪飾りは雷童さんからの贈り物だ。古本は一郎太さん。椿が描かれた扇子は小椿さんが使っていたものだ。珍しいビスケット……これは銀月さんだろう。

「う、……」
 大好きな兄さん達の温かい心が、痩せた体の隅々まで浸透してゆく。
「彰星さん……」
 俺は両手で口を押さえ、その場に頽れて泣き続けた。