第9話 天凱の気持ち -5-

 流石の俺だって分かっているつもりだ。
 そもそも俺達のような男遊を身請けしたところで、結婚も跡取りを産むこともできない。ただ傍に置いておくためだけに借金肩代わりなんて、そんな無意味なこと誰がするものか。
「まあ、数少ない俺の友人だし。あいつがお前に執心している間は夢見させてやってくれ」
 言いながら勇蔵さんが俺の乳首を口に含んだ。

「んっ、あ……」
「天凱が惚れた若い体だな。きめが細かくて良い味がする」
「あぁっ……あ、い、痛いです、勇蔵さん……」
 抓られた反対側の乳首が熱くなり、思わず眉間に皺が寄る。
「勇蔵さん、っ……」
 俺の訴えなど始めから聞く気がないのか、勇蔵さんは構わず俺の肌に舌を這わせ爪を立てていた。愛撫とは言えない一方的な荒々しさ。俺を喋る人形か何かと勘違いしてるんじゃないだろうか。

「い、いやっ……!」
 脇腹の一か所を思い切り吸い上げられる。勇蔵さんが唇を離した時にはその一点に薔薇の花びらのような痕が残されていた。
「これを見たあいつが悔しがればいい」
「勇蔵さ、……」
「俺の勝ちだ」
「あっ、……!」
 意味が分からないまま両脚を開かされ、スキンもせずに勇蔵さんのペニスが俺の蕾にあてがわれる。……それに気付いた瞬間、全身からどっと汗が噴き出した。

「や、やめて下さい……堪えて下さいっ、……勇蔵さん! 駄目です、どうか娼楼の決まりを……!」
「ずっとあいつに勝ちたかった……何をやっても俺はあいつに勝てなかった……!」
「勇蔵さんっ……!」
「俺は産まれた時から勝ち組だった。それなのにあいつは、……」
 身を起こそうとした俺の肩が勇蔵さんの手で乱暴に掴まれ、思い切り布団の上へと倒される。
 そして。

「あいつは、売られてきた男のくせに……!」
「え、……?」
 目を見開いた俺を見下ろしながら、勇蔵さんが「知らなかったのか?」とようやく自信を取り戻したように嗤った。

「あいつは十歳の頃、西のド田舎から廓に売られてきたんだ。襤褸切れを着たあいつを哀れに思った一ノ瀬堂の旦那が、情けで引き取ってやったのさ。本当ならお前と同じ男遊になっていた男だ。……だからお前らは似た者同士なのかもしれねえな」

 そんな話、想像もしていなかった。
 天凱さんが俺と同じように売られてきた子供だったなんて。

「………」
「だからあいつは一ノ瀬の旦那に一生払っても返し切れないほどの恩がある。お前を身請けしようなんて自分勝手は、間違っても許されねえ話さ」
「……勇蔵さん」
 俺は抵抗をやめ、体の力を抜いて布団に身を預けた。

「確かに俺は天凱さんとそんな約束はしていませんし、このままの状態で貴方が俺を抱けば、天凱さんにも許していないことを貴方だけに許すことになります。……それが貴方の言う『勝ち』なら──何て浅ましいことでしょうか」
「……何だと」
 顔を横に向けたまま、視線だけを巳影勇蔵に向ける。

「そんなことで天凱さんに勝った気になれるのでしたら、どうぞお気の済むまで俺の中に精を放って下さい」
 勇蔵の鋭い目が俺の心臓を高鳴らせる。それでも俺は視線を逸らさず、しっかりと彼の目を見つめ続けた。
 逆上すればいい。この男が俺の言葉に怒るなら、力任せに俺を手籠めにするなら、それだけの男というだけだ。何と言う小さい男……天凱さんと同じ土俵にすら立っていないと、本人は気付いていない。

「貴方に何をされたところで、痛くも痒くもありませんから」
「っ……!」
 鋭い音と共に頬を張られ、鼻の奥に生ぬるいものが溢れてくるのを感じた。
 垂れた血を手の甲で拭いながらも、俺は視線を逸らさない。
「ガキが……!」
 吐き捨てるように言って、勇蔵が俺の上から体をどかした。そのまま立ち上がって襖を開け、廊下を出て行く。
「どうなってる、この見世は! ガキの躾けも出来てねえのか!」
 やがて遠くの方から番頭さんやお義父さんの声が聞こえてきて、俺は腹を括った。