第8話 兄さん達のとある事情 -4-

『一ノ瀬天凱さま
 ドウシテモ天凱さまにシタイコトがアリマスので、おジカンつくかぎりナルベク早クおこし下サイ 彰星』

「彰星、怪文みてえな可愛い手紙ありがとうな。俺にやりたいことって何だ?」
「て、天凱さん」
 雷童さんと風雅さんに教えてもらったその日のうちに、淡雪を使いに出して手紙を渡してもらった訳だが……まさか今日の今日で来てくれるなんて。

 天凱さんのスーツの上着を脱がせながら、俺はあたふたと謝罪した。
「ご、ごめんなさい。急に呼び出してしまって……」
「いいさ、お前からの呼び出しならいつでも歓迎だ。俺ばかりががっついてると思ってたから嬉しいぞ」
「そんな、……こと、全然ないです」
 思わず笑顔が引き攣ってしまう。

 だって今日俺が天凱さんを呼んだのは、雷童さん達に教えてもらった例のアレを彼にするためだ。一体どっちががっついてるというのか。

 あぐらをかいた天凱さんにお茶を勧め、俺もその正面に正座をした。
「で、何をするって?」
「あああ、あの、その……」
「うん?」
 天凱さんの大きな目が俺をじっと見つめている。目を開いて口元でにんまりと笑うのが彼の表情の基本だ。自信ありげで、きりっと男らしくて、俺なんかには勿体ないほどの素敵な方で……。
「はあぁっ」
「あ、彰星っ?」
 思わずくらくらして仰け反ってしまう。……駄目だ、ペニスをしゃぶらせて下さいなんて、とても言い出せない。

「あのっ、天凱さん。淡雪にお土産を持たせてくれてありがとうございました!」
「おお、皆で食ってもらおうと思ってな。ケーキも買って行ってくれたし、あんな土産で済まないとは思ったんだが」
「そんなことないです。兄さん達も美味しい美味しいって……天凱さんの影響で、寿輪楼では和菓子より洋菓子が流行ってますよ」
 それならいいけどよ、と天凱さんが嬉しそうに笑う。

「親父が彰星に会いたいってうるさくてよ。彰星さえ良ければ今度、店の中まで入って来てやってくれないか」
「………」
 いつも廓内で会う時は店から離れた所で手を振って、それに気付いた天凱さんに出てきてもらうというやり方を取っている。天凱さんの両親に会うのが怖かったからだ。

 俺はこの体を売って生きている身。どんなに人の好い親でも、自分の息子が通う見世の男遊なんて会いたくないに違いない。
 天凱さんのお父さんが俺に会いたいと言っているのは、俺が男遊だと知らないからだ。お願いだから俺の仕事のことをお父さんにはまだ言わないでと、俺が天凱さんに頼み込んでいるからだ。

「……俺はまだここに来て日が浅いから、廓でも顔は知られてないですが……。もしも天凱さんのお父様にご挨拶をして、後から俺が男遊だと知られてしまったらと思うと……」
「だから俺が先に親父に説明するって言ってるのによ」
「………」
「そんな顔するな。悪かった、もう困らせねえ」
「天凱さん……」

 今は、こうして抱きしめられた時の温かさがあればいい。頭を撫でてくれる大きな手があればいい。これ以上を望むのは身分不相応の贅沢というものだ。

「……で、俺に何をしたいって? 忘れる所だった」
 もう割とどうでも良くなっていたけれど、それが逆に俺の中から「恥ずかしさ」を払拭してくれたみたいだ。
 俺は天凱さんの胸から顔を上げ、囁くように言った。
「天凱さん、今日は俺が天凱さんの真似をしても良いですか?」
「ん?」