第8話 兄さん達のとある事情 -3-

 宙を見て考える俺に、牡丹さんが言った。
「そりゃ若さんは客だから。客は好きでやってるんだから、そんなこと考えないんじゃないかな。彰星の方はどうだ? せめて口の中を濯ぎたいって思わないか?」
「お、俺は……」
 少しだけ恥ずかしさに俯きながら、兄さん達に白状する。
「俺は、お客さんに……それ、したことないです」
「はあぁっ?」
「一度もかっ? 今まで一度も? 若さんにもっ?」
 瞬間的に目を剥いて迫ってきた小椿さんと風雅さんの顔を、俺はぶるぶる震えながら見上げて頷いた。

「だ、だ、だって今まで、お客さんが『やれ』って言わなかったから……。俺のお客さんて、天凱さん以外は短時間で帰っちゃう人が多いので……そんな暇ないのかもしれないです」
「何だ、ツイてただけか。帰ろ」
「ちょ、ちょっと待って……!」
 解散解散、と席を立とうとする兄さん達に慌てて縋り、何とかもう一度座らせようと懇願した。

「や、やり方教えて下さいっ。俺これまで運が良かっただけで、今後絶対に必要になりますよね? その時のためにどうか……」
「やり方って言ってもよ。別にただ咥えてしゃぶるだけなんだけど」
 風雅さんの言葉に頬が尋常でないほど熱くなる。俺の頭の中に浮かぶのは知らない男の顔ではなく、裸になった天凱さんだけだ。

 天凱さんのアレを口に咥えるなんて──考えただけで恥ずかしくて溶けてしまいそう。

「お客さんからされたことはあるでしょ? 若さんもそういうの好きそうだし」
「ら、雷童さんっ。何て破廉恥なことを……!」
 頭の中でヤカンが沸騰する。直接的な映像を思い出してしまったせいだ。

「同じことすればいいんだよ。そりゃ好きでもない男にするのは嫌だけど、気持ちは別としてやるのは簡単だよ」
「でも、男の人のアレってある程度の大きさがあるでしょ。俺って口がそこまで大きくないし、舌もそんなに長くないから……」
「俺達の口がどんだけバケモノ級だと思ってるんだよ!」
 小椿さんが背後から倒れ、足をバタつかせながら笑い転げた。

 どうしたら良いか分からず動揺するばかりの俺の右手を雷童さんが取り、意味ありげに笑って俺の目を見つめる。
「はい、それじゃ中指出して」
「え……?」
「おお、そんじゃ俺様は左の指でやってやる」
 反対側から風雅さんが俺の手を取った。両方の中指の先端に雷童さんと風雅さんがそれぞれ口付け、……そろりと伸ばした舌で、舐められる。
「ひゃっ!」
「そうだな、最初は舌で舐めるところからだ」
 牡丹さんが腕組みをして頷く横で、床から身を起こした小椿さんが「ほおお」と目を見開いた。

「う、ううぁ……あ……変です、この感じ……」
 二人の舌の感触が指の先端から側面、そして指と指の間の付け根に這い、背筋にぞわぞわとした悪寒が走る。俺は二人に指を舐められながら背筋をぴんと伸ばし、だらしなく口を開けて意味不明な呻き声をあげた。

「いや、やあぁ……。指が溶けます……ああぁ……」
 雷童さんが中指を根元まで咥え、ねっとりと舌を絡ませる。風雅さんの方は咥えた指を吸いながら頭を前後させている。直接陰茎をそうされている訳じゃないのに、物凄くいやらしくて……気持ち良い。

「あ、あ……もうやめて下さい、もう駄目ですっ……」
「ぷは」
 そこでようやく二人が口を離してくれた。
「どうかな、こんな感じ。分かった?」
「……は、ぁ……」
 どうやら俺は読み書きや踊りの他にも、覚えなければならないことがまだまだ沢山ありそうだ。