第8話 兄さん達のとある事情

 大好きなほかほか白いご飯、お豆腐とワカメが入った熱い味噌汁。キュウリと大根の酢漬けに、お豆とヒジキを和えたやつ。
「あああ、しあわせぇ……!」

 朝十時。たっぷり寝てから食堂で最高の朝食を頂くという、俺の大好きな大好きな至福の時間。昨日は張見世が終わる零時手前についたお客さんに、見世終いぎりぎりの午前二時頃までねばられた。心底へとへとだったけれど、翌朝こうしてご飯が食べられるなら体だけは元気復活だ。

「彰星は本当に、美味しそうに食べるよね。おばちゃん達もきっと喜んでるよ」
「だって美味しいですから!」
「確かにね」
 食べ終わった茶碗を重ねた雷童さんは爪楊枝を咥えながら股を開くという、華やかさの欠片もないだらしない恰好で座っている。

「また田崎の旦那様と、カレー食べたいなあ」
「俺はあれは嫌ですっ。ご飯が辛いのは駄目ですっ」
「甘口のもあるんだって。味が付いた白いご飯って、美味しいよ。炊き込みご飯とか、お赤飯とか、色々あるじゃない」
「雷童さんっ、そういうの聞くとお腹空いちゃうからやめて下さいっ」
「今食べてるのに?」

 そんなやり取りをする俺達から少し離れた場所で、他の兄さん達が煙草に火を点け咥えている。

「煙草って美味しいんですかね? お義父さんも吸ってたけど……」
 箸とお茶碗を持ったまま問うと、「あれはね」と雷童さんが笑った。
「食後の一服っていうのが最高なんだって。俺は吸わないからよく分からないけど、みんな何か食べた後は必ず煙草を吸うってのが癖になってるんだ」
「苦いって聞きましたけど、そうなんですか? ご飯の美味しい味が口の中に残ってるのに、わざわざ苦いのを吸いたくなるんですか?」
「そうらしいよ。不思議だよね」

 苦い上に、体にも悪いものだと聞いている。それに煙を吸って煙を吐くという動作に何の意味があるのか、不思議で堪らない。

 俺はお茶碗を下げてから、煙草を吸っている兄さん達の方へと近付いていった。
「俺にも一口下さい」
「ダメダメ、吸わなくていいモンをわざわざ吸わせられねえよ。これは依存度の高い嗜好品なんだ。たった一口で彰星が愛煙家になっちまったら、俺がお義父さんに叱られるからなぁ」
 そう答えたのは、薄茶色の綺麗な髪を一つにまとめた牡丹さんだ。試したかったが断られてしまい、俺はしゅんとなりながらも更に訊ねた。

「牡丹兄さんは、いつから煙草を吸ってたんですか?」
「ん。遊廓に来てからかなぁ。お客さんが吸ってたのをもらったのが始まりだったが」
「俺もここに来てからだ」
 小椿さんが言って、更に、
「俺もだ。皆そうじゃねえの」
 風雅さんまでもがそう言った。