第7話 風雅の心 -7-

 ──住む世界が違うって、頭では分かっているんだよ。
 住む世界が違くても、例え風雅さんが今この瞬間に失恋したのだとしても、武次さんに悪気がないのは分かってる。

 だけど悪気がないからこそ、俺達はこんな言葉に傷付けられてしまうんだ。

「風太っ、お前もすぐこんな場所から出ろ。俺に助けて欲しいから見世の場所を教えてくれたんだろ。俺が道っちゃんの親父さんに頼んでみる。だから男と寝る仕事なんか、こんな汚らわしい仕事なんかするなっ──!」
「っ……!」

 考える暇もなく俺の手は動いていた。
 一瞬の怒りに脳が沸騰し、気付けば俺は武次さんの頬を思い切り張っていた。

「な、……何をするっ!」
「……俺、頭悪いから……この気持ちを上手く説明できませんけど……」
 溢れた涙がぼろぼろと頬を伝って行く。言葉は出てこないのに興奮して、頭の芯が燃えるように熱くなる。
「俺達を、……馬鹿にすんなっ……!」
「やめとけ、彰星」
 お義父さんに腕を掴まれ、俺の体が引きずられて行く。みんなが目を見開いて俺を見ている。

 それでも俺は叫んだ。腹の底から喚き散らした。

「俺達お客さんに体売ってるけど、そんな風に下に見られる筋合いはないんだっ! 風雅さんは──みんなは、故郷の家族のために働いてんだ! 遊ぶ金が欲しくてやってるんじゃねえんだぞっ!」
「彰星っ!」
「家族のために身を売るのが汚らわしい仕事なのか! だったら俺達っ……この遊廓にいる男遊もお女郎も全員、どんなことすれば売られずに済んだんだよおっ!」

 今でもたまに頭に浮かぶ、一緒に船に乗ってきた子供達の顔が。
 この廓にも大勢いる。着古したキモノでさえ故郷に送れば有難がられるという人も、しょっちゅう故郷から金を送れとせっつかれている人も、やっとのことで年季が明けて故郷に帰ったところで「娘が女郎上がりなんて世間に知られたくない」と、外に出してもらえない人も。

 それでも俺達はここで生きるしかない。逃げても死んでも家族に迷惑がかかるなら、泣いて性器や肛門を腫らしながらでも客に抱かれ続けるしかない。

 それが汚れているというのなら、一体誰が悪いんだ。遊廓か、楼主か、女衒ぜげんか、親か。

 どれだけの徳を積めばこうなる未来が防げたのか。

 俺達に選択肢なんか無かったんだ。