第7話 風雅の心 -3-

「故郷にいた頃の幼馴染だ」
 歩きながら俺が聞きたそうにしていたのを見て、風雅さんが自分からそう教えてくれた。

「武次って名前で、俺が売られる時に泣いて止めに入ってくれた。今みてえに腕掴まれて、痛てえのなんのって……」
「そ、それならどうして知らないふりなんかしたんですか? せっかく再会できたのに!」
「ガキの頃から一緒に育ってきた仲だ。男と寝てる今の俺なんか見せたって、お互い何の得もねえだろ」
「………」

 胸が痛むのは、風雅さんの言葉が彼の本心だと伝わってくるからだ。
 俺は帰る場所もないけれど、きっと風雅さんにはそれがある。わざわざ売られた幼馴染を探しに来てくれる人がいるのだ。誰か一人でも「男遊でない本当の自分」を想ってくれる人がいるというのは、幸せなことなんじゃないだろうか。

 俺達は売り物で、お義父さんに買われた身だ。その時お義父さんが売り手に払った金額も含め、キモノ代に飯代部屋代、日用品代、全てが俺達の借金になっている。それを返し終わるまでは絶対に廓から出られない。男に抱かれ続けるしかない。

 風雅さんがかつての幼馴染に今の自分を見られたくないという気持ちは、幼馴染がいない俺にも分かる気がした。

 てん、てん、てんととてん。
 てんてんてんとと、てけてんてん。

 俺が躍りの稽古をしている時の三味線の音が、楼内に響いている。太鼓の音に歌声、笑い声。それから番頭さんや男衆の客を呼ぶ声。

 張見世に出て早々俺を揚げてくれたのは、寿輪楼では常連扱いされている呉服屋の主人だった。馴染みの男遊を作らず色々な相手と楽しむのを主義としている人で、男遊達からはあまり好かれていない。どんなに愛想をよくして尽くしても、次回は自分を指名してくれないからだ。

「ようやっとお前に会うことができた。あの一ノ瀬の倅が入れあげている男遊というのはどんなものか、試してみたくてなあ」
「今宵の俺は旦那さんの物でございます。どうぞ心行くまでお楽しみ下さい」
 この台詞を言うたび俺の心は固く閉ざされる。こんなのは決まり文句でしかないと心に言い聞かせている自分が、空しい。

「ふ、あ……あぁ……」
「良い声を出す。肌も男とは思えんほど艶があるな」

 圧し掛かられて体を貪られる最中はいつも、捕食される小動物のような気分になった。呉服屋の主人の口ヒゲが乳首にあたって痒い。ヘソの窪みを舐められると背筋に鳥肌が立ち、陰茎を含まれると涙が滲んだ。

 好きじゃない男に触られる辛さが、日に日に体に叩き込まれて行く。いくら心の中を空っぽにしていても、体に感じる刺激までは無視することができないのだ。

「泣くほど良いか、彰星」

 顔では笑っていても、どんなに体が濡れても、心だけが張り裂けそうだ。

「……はい、旦那さんに……もっとして欲しくて……」
「可愛いな」

 張り裂けそうだ──。