第5話 少年たち -8-

「ら、っ……!」
 雷童さんの手には小刀が握られていた。やくざ者が使う、俗にいうドスと呼ばれる物だ。

「雷童さんっ、──」
 俺の口を塞いだのは天凱さんだった。むぐぐと暴れる俺の前で、こちらに背を向けた雷童さんが部屋の文机を思い切り踏みつけるように、片足を乗せる。

「ら、雷童。これは……! ち、違う……!」
 敷かれた布団の上には茶屋の主人が尻もちをつき、その傍らで半裸の春和歌が鈴鞠の手によってキモノをかけられ泣いていた。

「恩田さん。あんた、十にも満たない男の子子おのこごに何してくれてるんです? 春和歌が俺のお付きと知っての行為ですか?」
 あの朗らかな雷童兄さんが発しているとは思えないほどの低い声に、関係のない俺まで竦み上がってしまう。
 野次馬の中には寿輪楼の男衆もいたが、皆雷童さんの気迫に気圧されて口出しできないらしかった。

「す、済まなかった……! 雷童許してくれ。もう二度とこんな真似はしねえ。この通りだ!」
「謝る相手は」
 雷童さんが茶屋の主人の腕を取り、文机の上に手のひらを付けさせる。
「──俺じゃねえだろうがァッ!」
 その名と同じ鈍い音がして──雷童さんの持っていた小刀が文机の上に突き立てられた。
「ヒッ……」

 主人の人差し指と中指の付け根すれすれを、小刀が縦一文字に突き刺さっている。主人の顔は気絶してしまうのではないかと思うほど青褪め、開きっぱなしの口からは涎が垂れていた。

「あんたの茶屋、明晩にでも畳んで下さいな。この弥代遊廓の子らがあんたの卑猥な目で見られると思うと、我慢できねえですから。それと──」
 雷童さんが小刀の刺さった文机を蹴飛ばし、一層低い声で主人の耳に囁いた。

「今夜起きたことへの弁償は、きっちりして頂きますよ」
「あ……あ」
「春和歌。鈴鞠。おいで」
 踵を返した雷童さんに続き、鈴鞠に体を支えられた春和歌が部屋を出てくる。入れ替わるようにして慌てて男衆が部屋になだれ込み、ぴしゃりと襖が閉じられた。

「カッコいいなあ、雷童兄さん……」
「すんごい気迫だった……」
「あの優しい兄さんが……。怒るとめちゃくちゃおっかねえんだな……」
 他の兄さん達が目を剥いて、廊下を行く雷童さんの背中を見つめている。俺もその内の一人だった。

「がはは、相変わらずだな雷童の坊主は!」
「……も、もしかして天凱さんの言っていた『面白い物』って……」
 高らかに笑っていた天凱さんが、ニッと笑って俺に言った。
「俺は雷童が十五で弥代に来た時から知ってるんだ。顔は可愛いのにどうしようもない悪ガキの跳ねっ返りで、言葉遣いも悪くてなぁ。矢多さんも当時の男遊も躾けるのに相当苦労してた」
「そ、そうなんですかっ?」
「ああ、元々やくざ者の賭場で育ってきたらしい。彰星も、雷童だけは怒らせないように気を付けた方がいいぞ?」
「ひえぇ……!」