第5話 少年たち -6-

「天凱さん!」
「おおお、彰星。会いたかったぞ!」
 翌日の見世開きになってすぐ、約束通り天凱さんが来てくれた。今日はスーツで決めている。抱きしめられると胸の中にすっぽり頭が収まって、物凄く心地が好い。

「また一本で揚げちまった。俺が帰った後で別の男にお前が抱かれるかと思うと、気が気じゃなくてよ。今日はまたチョコレートを持ってきたぞ。出来損ないじゃない、ちゃんとした売り物だ」
「嬉しいです天凱さん。俺本当に、本当に嬉しいです……!」
 得意げに笑う天凱さんの意外に子供っぽいところも、たまに意地悪なことを言うところも、今ではそれが彼の魅力なのだと理解している。
 ……困っている人を放っておけないという優しい心も。

「天凱さん、今夜はどうしても俺のワガママを聞いて頂きたいんです」
「どうした急に。言ってみろ」
「今夜だけは、……俺が天凱さんのためにここにいる訳じゃないということを、どうかお許し下さい」
「……どういうことだ?」
 う。やっぱり怒るよなぁ。
「じ、実は……」

 春和歌に聞いた今日の雷童さんの客事情は、せともの屋の旦那が六時から三時間。同じ時刻に茶屋の主人も入っている「廻し」になるから、恐らく格下の茶屋の主人が多く待ちぼうけを喰らうことになるだろう。

 何人もの常連を抱えていると、こういうことがしょっちゅう起こるのだという。相手をしていた客に「すぐ戻るから待ってて下さいな」と部屋を出て、別の客が待つ部屋へ行くのだ──これが「廻し」。寿輪楼では客が贔屓の男遊を待っている間、そのお付きが酌をして相手をすることになる。この時、幼いお付きには絶対に手を出してはならない。

 茶屋の主人は昨日も雷童さんを揚げた。それほど金がある訳じゃないが、かなり雷童さんに入れあげていると教えてくれたのは風雅さんだ。嫉妬深く、少しでも雷童さんがいないと子供のように不貞腐れるのだという。

 嫉妬深くてすぐ怒る男。──春和歌を泣かせたのは、茶屋の主人だ。

「なるほどなぁ。そりゃあの坊主達が大人の客から悪戯されてるなんて、許せねえ話だ。それ、雷童は知ってるのか?」
「知りません。なので、その時が来たら俺が助けに行きませんと。なので天凱さんにお願いをしたんです。その時になったら、俺がこの部屋から出ることを許して欲しいんです」
「それは止めといた方がいいぞ、彰星」
「え?」
「雷童のお付きは、雷童が助けなきゃよ。兄さん一人を蚊帳の外にするモンじゃねえ。それこそ面子が潰れちまうだろ」
「で、でも……」
 俺の肩を抱き寄せながら、天凱さんが低く笑った。

「もしも淡雪の身に何か起きた時、お前の知らない所で全部が終わってたら何となく落ち込むだろうよ。自分は淡雪が受けた傷のことを何も知らなかったし、向こうも自分を信頼して相談してくれなかったのかな、ってさ」
「そ、それは……確かにそうですけど……」
「だろ。だからこの件は雷童に任せるんだ。……面白れえモンが見れるかもしれねえしな」
「面白いもの?」
 きょとんとする俺の頬に、天凱さんが唇を押し付ける。

「で、今夜の運びはどうなってるんだ」
「えっと、淡雪に動いてもらっています。春和歌が茶屋の主人の部屋に入ったら、襖越しに様子を見てもらって……。何かが起きたらすぐに、俺に報せに来るよう言ってあるんです」
「ふうん。それなら淡雪に予定変更を伝えておけ。お前じゃなく、先に雷童の部屋へ行くようにな」
「はあ……」
「そんじゃ俺達は、あの小姑が呼びに来るまで楽しむとするか!」
「………」