第5話 少年たち -2-

「わああ」
 その日は俺の癖の強い髪でも綺麗に整えてくれるという、新しく出た椿オイルを買いに淡雪と遊廓内を歩いていた。
「弥代は昼でも賑やかですねぇ。俺がいた秋津あきつ遊廓とは全然違います」
「淡雪、他の廓から来たんだね。俺はここしか知らないから羨ましいなあ」

 俺達の生活範囲はこの弥代遊廓の中だけ。そこから外にはお義父さんと警察の許可を得なければ絶対に出てはいけない決まりで、一歩でも出ようものなら足抜けとみなされ酷い折檻を受けてしまうのだ。

「天凱さん!」
「おお、彰星!」
 買い物帰りに一ノ瀬堂の前を通った俺は、店内に見えた焦げ茶の髪と大きな目に思わず手をあげた。

「どうした、今日は買い物か」
「俺の髪、何もしてないとこんなでしょ。普段から少しでも綺麗にしとけってお義父さんに言われて、髪につけるオイルを買ったんです」
 わざわざ仕事の手を止めて店の外に出て来てくれた天凱さんに、俺の心臓が嬉しくて舞い踊る。今日の天凱さんは袖の長い黒いシャツとズボンに、白くて長い前掛けを腰に巻いていた。背の高さが際立つ格好だ。思わず見惚れてしまう。

 西洋菓子店・一ノ瀬堂──お店の見た目も洒落ていて、大きなガラスの窓の向こうには天凱さんのお父さんが飾った「ケーキ」や「タルト」が色々な高さで並べられていた。

「そうか? 俺は普段のバサバサの方が好きだけどなぁ。俺も髪の手入れなんかあまりしねえし。男なんだから少しくらい……」
「いけませんっ」
 俺の髪に触れようとしていた天凱さんをぴしゃりと言葉で止めたのは、一緒にいた淡雪だった。

「あ? 何だこの坊主は」
「あ、淡雪……」
「彰星兄さま付きの淡雪にございます。一ノ瀬の若様、彰星兄さまは『男なんだから少しくらい』では通用しない場所にて生きているのです。いくら若様でも娼楼のしきたりを破るよう兄さまに勧めるのはおやめ下さいっ」
 キッと天凱さんを見上げる淡雪。俺も天凱さんもしばらくぽかんとしてしまったが、ふいに天凱さんが淡雪の頭を撫で回して笑った。

「がははは、こりゃ小姑みてえなお付きだな! こんだけしっかりしてれば彰星のことも任せられる。気に入ったぜ、淡雪!」
「やっ、やめて下さい! 頭を撫でっ……嫌あぁ!」
 更に天凱さんが淡雪を担ぎ上げ、目線を同じ高さにして言った。
「彰星のこと頼んだぞ。妙な輩が寄ってきたらその威勢の良さで追っ払ってくれ。ちっこい用心棒の淡雪ちゃん」
「よ、よ……」
 天凱さんの大きな目で見つめられているからか、流石に淡雪も照れて赤面している。
「用心棒じゃねえぇ──ッ!」
 ……違う。怒って真っ赤になっていただけみたいだ。