第4話 運命の夜 -7-

「でかしたぞ、彰星っ! あの一ノ瀬堂の若さんを旦那に付けるたァ、最果からの大出世だ!」
 翌朝。天凱さんを見送って楼に戻った俺を待っていたのは、目を爛々と輝かせたお義父さんだった。

「彰星っ、彰星、彰星! お前を買った俺の目に狂いはなかったんだ! お前は星だっ、寿輪楼の幸運星、福の神だぞっ!」
「お、お義父さん……声が大きいです。まだ寝てるお兄さん方も……」
「やっぱ弥代遊廓一の、天下の寿輪楼だわなァ。雷童の田崎の大旦那、風雅の柳来の旦那、そして彰星の一ノ瀬堂の若。これからますます寿輪楼はデカくなってくぞ……!」
 今にも飛び上がって叫び出しそうなお義父さんを何とか宥め、俺は小さく溜息をついた。

 ちなみに「旦那様」といっても本当に娶られる訳ではない。ここで言う旦那とは「一番の太客、後ろ盾」という意味だ。
「お前ら三人で寿輪楼の男遊スタアになれるかもしれねェ。ブロマイド山ほど刷って売り出して、歌だの踊りだのでも稼げるかもしれんぞ。男も女もお前達に見惚れて金落としてくれる。そうなりゃ寿輪楼は──」
「お義父さんってば!」

 受付台に座ったお義父さんがようやく落ち着いたのか、煙草を咥えて燐寸マッチを擦った。
「あああ、駄目だ。何してようがニヤけちまう……」
「お義父さん、俺はたった一晩見世に出ただけですよ。俺なんかより一郎太兄さんの方がよっぽどスタア向きでしょ」
「一郎太はえげつねェほど美人だが、あれはどうにも目立つのを嫌う性格でな。銀月やら牡丹ぼたんやら小椿こつばきやら……他にも売れっ子はいるが、初見世で旦那が付いたのはお前が初めてだよ」

 そんなモンなのかなぁと思った俺に、お義父さんが「よっしゃ」と膝を叩いて言った。
「彰星。お前にはこれから読み書きを教える。それから芸も身に付けねェとな。それからお前のお付きも必要だ。ついでに雷童と風雅の新しいお付きもな。今日は忙しくなるぞ!」

 物凄く上機嫌なお義父さんを残して風雅さん達の部屋に戻ると、そこでも物凄く上機嫌な二人の兄さん達が俺を出迎えてくれた。

「聞いたぞ。よくやったな、彰星っ!」
「ほらぁ、やっぱ俺の教えが良かったんだって!」
「いだっ! いてえっ! 降ろして下さいぃっ!」
 風雅さんと雷童さんが俺を担ぎ上げ、何度も天井に頭をぶつけられた。酷い扱いだけど俺のために喜んでくれているのは伝わるから、二人を怒ることはできない。

 それに。

「風雅さん。雷童さん。ありがとうございました。短い間でしたけど、お二人のお付きになれて本当に良かったです」
 畳に降ろされた俺は改めて手を付き膝を付き、二人に向かって頭を下げた。

「へへ。何か照れるね。これからもよろしくね、彰星」
「しかし若旦那の前についた客をぶん殴って逃げるとは、お前度胸あるよなぁ。それを若旦那が助けたって、廓中の噂だぞ」
「そ、そんな大きな話になってしまったんですか? 俺はぶん殴ってなんかいませんよ!」
「いいんだって、そういうことにしとけば。デカい噂が付けば彰星自身にも箔が付く、ってね!」

 第4話・終