第3話 初見世

 俺達はまだ楽な方なんだぜ、と風雅さんが言う。
「お女郎の商売は大変だ。いくら避妊具の使用を徹底しても、ちょいとした間違いや欲で客の子供が出来ちまう。女同士のいざこざもおっかねえし、男の客に乱暴されても力では敵わねえ」

 本当だよねえ、と雷童さんが眉尻を下げる。
「避妊具がなかった頃は、一回一回お客さんの精液を流すために自分であそこを洗滌せんできしてたんだよ。スキンを発明した人って、凄いよねえ」

 昼飯後。部屋の真ん中で正座をして二人の話を聞きながら、俺は一粒だけ風雅さんに恵んでもらった「弥代てまり」を口の中で転がしていた。甘くて美味しい。もう二粒分けてもらって、キモノを貸してくれた銀月さんと水連にも食べてもらおう。

「聞いてるか、彰星」
 風雅さんが煙草の煙を俺の顔に向かって吹きつける。
「わっ、……聞いてます!」
「前世紀で法治国家が大爆発して一旦更地になってから、時間をかけてこうして再び『遊廓』含め色んなものが産まれた。遊廓ってのは元々すっげえ昔の江戸時代にあったもので、再建されたのは約百六十年ぶりだそうだ」
「勉強になります」
「寿輪楼みたいな和風の娼楼じゃなくて、西洋風の見世も沢山あるよね。東の通りでは男遊に外国人風の源氏名を付けてる所もあるって。キモノも西洋の凄いカッコ良いやつらしくてさぁ。あそこに売られた子はちょっと得だなって思うよ」

 最果という貧しい田舎の荒野みたいな所に住んでいた俺には、ここでは何もかもが比べる必要なくカッコ良いと思う。風雅さんの言ったように一旦「更地」になったこの国は、地域によって物凄い格差があるのだ。

 まず俺は読み書きができない。学校というものを知らない。物心ついた時から畑に出ていたからだ。娯楽は石蹴りだの川遊びだの自然を相手にしたもので、一握りの白い飯を食べたのは親戚の家に引き取られた第一日目だけ。

 彰星という名前はあったが、どういう字で表すのかも知らなかった。漢字以前に平仮名というものを知らなかった訳だから、俺と同様あまり文字を知らない親戚のおじさんが土に棒で書いてくれた「あきほし」を覚えるのに何日もかかった。

「彰星。お付きの間に何か習い事するとか、お義父さんに聞いた?」
「いえ、そういう話は全然……」
 雷童さんが宙を見つめながら「うーん」と首を傾げる。
「習うとしたら、やっぱり踊りか三味線からかな? お客さんに披露できるものがあれば、宴席で役に立つもんね。一郎太の三味線で踊ったり歌ったり」
「えええ、凄い……夢みたいな話ですね」
「それと、読み書きも大事だよね。良いお客さんができた時に手紙書くと喜ばれるよ」

 読み書き。やっぱり必要なものなのか。平仮名はまだ見た目的に単純だけど、漢字はどうも覚えられそうにない。