第2話 娼楼の外で -8-

 ──だけど確かに、ご主人に聞いた方が早いかな。
 俺はしゃがんでいた体を起こし、店の奥で雑誌を読んでいた主人の元へと向かった。

「いらっしゃい。随分と洒落たキモノの坊やだね」
 飴屋の主人は、とても繊細な飴細工を作るとは思えないほどいかつい男だった。体は熊のように大きく筋肉も顎ヒゲも立派で、まるで山賊のようだ。

「あの俺、昨日から寿輪楼でお世話になっています、彰星と申します」
「寿輪楼! 風雅と一緒の所か!」
「はい。それで風雅さんから昨日、このお店の飴玉を頂きました。あんなに美味しい物を食べたの生まれて初めてで……俺、凄く感動しました!」
「ははは、新入りに俺の飴を分けてやるとは、風雅も優しいところがあるじゃねえか。こりゃまた近い内に土産を持って会いに行かないとな!」

 すっかり機嫌のよくなった主人が、ぐりぐりと俺の頭を撫で回す。さっきの天凱さんと違って物凄い力だ。右に左に体を揺らしながら、俺は「それで」と言葉を繋いだ。

「お土産を頂きたいのですが……お勧めはありますか?」
「土産ってことは、風雅にも渡るんだろ。それなら一番高価でとっておきの良い物があるんだ、それにすると良い」
「とっておきの飴は、旦那様がその手で風雅さんにお渡ししなければなりませんよ? 旦那様より先に俺が渡しちゃっても良いのですか?」
「うーん……そうかぁ」
 飴屋の主人が顎髭を撫でながら首を傾げる。

「それなら、この『弥代てまり』にすると良い。見た目も小粒の鞠みたいで可愛いし、毎週数量限定だからすぐ売り切れちまうんだ。今週最後の一袋を風雅にと取っておいたんだが、どうせなら坊やに託すよ」
「わっ、弥代てまり! ありがとうございます旦那様。ぜひ近い内に風雅さんに会いに来て下さいね! 風雅さんもお待ちしていますから!」
 大きな体に似合わず照れ屋なようで、主人の顔は真っ赤になっていた。

 ……そんな飴屋の主人の赤面が可愛く思えるほど、午後八時──畳の上に正座した俺の顔は火を噴きそうなほど熱くなっていた。

「あ、ん……旦那様、……久し振りで体が渇いているんです、もっと……!」
「雷童、久し振りでも変わらずに綺麗だ」
「はぁっ、あ……!」

 寿輪楼の二階三階は広く、客を迎える部屋が幾つもある。繁盛している時などは一つの部屋に衝立を用意し二組の客が入ることもあるのだとか。
俺達が入ったのは、売れっ子の雷童さんが個人的に与えられている太客専用の部屋だった。装飾も煌びやかで布団も厚い。この隣には風雅さんの客専用の部屋もあるが、流石に今日の今日で飴屋の主人は来ていない。

 そして今、俺の目の前で雷童さんが裸になり喘いでいる。見ていなさいと大旦那に言われた時は、てっきり二人で演劇でもやるのかと思ったのに……

「あ、あ……旦那様ぁっ……!」
 目を背けても雷童さんの声が入ってくる。声だけじゃない。荒い息使いや、体がぶつかり合う音や、口付け合う度に漏れる濡れた音も。
「っ……」
 よく見れば、大旦那の硬くなった陰茎が雷童さんの尻を出入りしていた。とてつもなく痛そうなのに雷童さんは少しも痛がる素振りを見せず、むしろ恍惚とした表情に薄笑みさえ浮かべている。

 ──親戚のおじさんとおばさんがしてたやつだ。

 俺はそこでようやく理解した。雷童さんの発する声にはまだ品があるが、確かにそれはおばさんが夜出していた声と同じ種類のものなのだ。