第16話 ご主人への贈りもの -6-

 そして、夜──

「裸エプロンていうのは炎珠さんの趣味で前にも少しだけあったけど、ボンデージにエプロンで料理、っていうのはミスマッチ過ぎない……?」
 夕飯のメニューはオムライス。着ているのは刹の要望によるSMっぽいラバーの衣装で、体にきゅっと密着している上に露出度が半端じゃない。Tバックだから尻なんて丸見えだ。

「飯炒めたりするのは俺がやってやるよ。油が跳ねて肌を傷付けでもしたら厄介だからな」
 ここに来て初めて、刹が料理をしている姿というものを目にした気がする。おぼつかない手つきでおたまを握り、フライパンの中をぐるぐるとかき混ぜ、その癖に少し「慣れてる感じ」を出そうとして、かき混ぜながら塩コショウを振ったり。
「そんなシチューみたいにかき回さなくてもいいんだよ」
「この方が満遍なく焼けるだろうが」
 ちなみに炎珠さんは後ろからスマホの動画で俺達を撮り、「SMカップルの新婚さんみたい!」と大笑いしていた。

「ケチャップで絵描いてね、那由太」
「絵ですか。じゃあ炎珠さんにはキツネのシルエットを……」
 ボトルをしぼり、タマゴの布団の上へ慎重にキツネの形を描いてゆく。
「はい、出来上がりです!」
「ネコと変わらないね……? ありがとう那由太!」
「刹のは黒ヒョウのシルエット!」
「……クマかと思った」
 俺のオムライスは普通に波型の線を描き、炎珠さんが並べた皿を撮影し、そうしてようやく三人手を合わせて「いただきます」を言った。

 *

 夕食後の皿洗いも今日は俺の役目。スポンジで皿を擦っていると、いつの間にか背後に立っていた炎珠さんにTバックの尻をむぎゅと鷲掴みにされた。
「な、何すんですかっ」
「手伝おうか?」
「大丈夫ですよ、そんなに洗い物多くないし。ていうかこれからも俺、このくらいなら炎珠さんの家事手伝いますからね」
「食器洗浄機、買おうかなって思っててさ。お腹いっぱいで満足してる最高の時間を後片付けに取られるなんて、勿体ないもん」
「おお、そしたら後片付けにあててた時間をこれからは有効的に使えますね」
「うん。そういう訳で、……」

 最後の皿を水切り台の上に置いた瞬間、炎珠さんの唇が後ろから俺の耳に触れた。
「これから刹と二人で、極上のデザートタイムを提供致しますよ。可愛いご主人様」
「っ……」
 もちろん「それ」も含めて一日ご主人様のつもりだったけど……そんな言い方、卑怯過ぎる。

「この格好なら女王様かな? ……ふふ、期待してるね那由太」
「そ、んなこと……ない、ですし……」
「でも、『ペットの顔』になってるよ。欲しくて堪んないって、欲張りなネコの顔に戻ってる」
「ち、違っ……。今日は、俺が二人にっ……」
 振り向いた俺の視界に入ってきたのは、赤くなった俺をじっと見つめる炎珠さんの綺麗な目だ。
「あ、……」

 ……そんな「ご主人」の目を見た瞬間、俺はつま先からとろとろ溶けて痺れて、堪らなく欲張りなネコの気持ちになってしまったのだった。