第16話 ご主人への贈りもの -2-

 考えに考えを重ねて、一週間が経った。

 二人が喜んでくれそうなこと。二人の役に立ちそうなこと。
 俺が出した答えは、「一日逆転ご主人様」。俺が二人のご主人になって、二人のワガママや要望を何でも聞いて甘やかすというもの。
 それって、普段とあまり変わらないんじゃない? と、華深には電話口で笑われてしまったけれど……俺なりに考えて出した案だし、常日頃の感謝の気持ちとしてたまには俺が二人のお世話をしたいのだ。

「という訳で、明日は俺が一日、二人のご主人になります! 炎珠さんも刹も明日はご主人を休んで、ペットになりきってのんびりして下さい!」
「ええっ面白そう! 俺と刹が那由太のペットになるんだね」
 その日の夕食中に提案すると、案の定炎珠さんはかなり興味ありげに食いついてきてくれた。
「……俺がにゃん太のペット?」
 刹が少し小バカにしたように笑うのも想定済み。俺はアツアツの豚カツにソースをたっぷりつけながら、鼻をクンと高くさせて逆に笑った。

「明日は俺が刹のご主人だから、刹のこともいっぱい甘やかしてあげる。仕事の手伝いだってしてあげるし、昼寝は膝枕もしてあげる。刹がして欲しいって言うなら、ご飯も一口ずつスプーンで食べさせてあげるよ」
「……昼寝は魅力的だな」
「那由太。俺達は何のペットなの?」
 それもちゃんと決めておいた。

「炎珠さんはキタキツネ、刹はブラックパンサーです!」

 そして翌日、金曜日。
「よっし、やるか」
 俺は朝から自身に気合を入れ、朝食作りに取り掛かった。今日は食事も俺が全部用意するのだ。炎珠さんには昨夜アラームをかけずに寝てもらい、朝食の準備が整い次第俺が起こしに行くと言ってある。
 炎珠さんのように華やかな食卓は演出できないけれど……素朴でほのぼのした朝食なら作り慣れている。

 サニーサイドアップ──もとい目玉焼きを作り、レタスとキュウリたっぷりのサラダに細切りしたニンジンとシーチキンで色を足し、こんがりベーコンを一人二枚の計算で焼いて行く。
 テーブルの真ん中にサラダを置いて、お皿を綺麗にバランス良く並べ、後はトーストが焼けるのを待つばかり。

 このタイミングでキタキツネ君を起こしに行くと、ベッドの中で既に炎珠さんが目をぱっちり開けていた。
「おはよう、那由太」
「おはようございます。起きてたんですか?」
「やっぱりいつもの習慣で目が覚めちゃって。手伝いに行こうと思ったんだけど、せっかく那由太が頑張ってくれてるからやめといたんだ」
 ペットになってまで俺のことを考えて気を遣ってくれている炎珠さん。
 俺は彼の頭を撫で、「朝ご飯できたよ」とお兄さんぽく囁いた。

 さて次はブラックパンサーを起こす番だ。
 刹の部屋のドアを開けると、ペットでもご主人でも関係ねえといった感じの相変わらずの寝相で、刹がいびきをかいていた。
「刹、ご飯できたよ。起きて」
「……ん」
「今日は俺がご主人の日だよ。覚えてる?」
「……俺を甘やかすんだろ。なら寝かせろ」
 ううん、と寝返りを打って刹が背中を向けると、俺の後ろに立っていた炎珠さんが歯ブラシを口に突っ込みながら笑った。
「寝てるとか勿体ないなー。せっかく那由太にご奉仕してもらえる日なのに。刹が寝てる間、俺がご主人独占しちゃおっと」
 ピクリと刹の耳が反応する。当然だけど、流石に炎珠さんの方が刹の扱いに慣れているようだ。