第14話 ご主人との大切な思い出 -9-

「涼真。……悪かった」
「へ……?」
 むっくりと起き上がった幸次郎さんが涼真さんの隣へ移動し、強く抱きしめ自分の胸へと頭を預けさせる。
「お前がそんなこと考えてるなんて全然知らねえで、……勘違いして、結果お前を悩ませていたんだな。……お前、あんまり声出さねえから俺とのセックスに飽きてるんじゃねえかって思って」
「そ、そんなことは」
「だから変わったことすれば、また昔みてえになれるかなって……」
 もしかしたら俺はいない方が良いかもしれない。
 そう思ってこっそり立ち去ろうとしたのだ──が。

「那由太たちの声聞いた時、昔の俺達を思い出したんだ。あの頃はすること全てが新鮮で、触れ合うのが嬉しくて、俺とお前がいれば道具もコスプレも何も必要なかった。散々お前に変なプレイ強いちまってたけど、俺……あの頃に戻りてえって、頭のどっかではずっと思ってたんだよ」
「幸、次郎……」
「お前も同じこと思ってくれてたなんて、泣けるくらい嬉しい。……俺も、患者でも生徒でも弟でもない、本当の涼真を抱きてえ」
「ん……」

 俺はテーブルに顔を伏せつつ、半目で二人のキスシーンを眺めさせてもらった。ラブロマンス映画のような情熱的なキス。出会った頃の二人のように、お互いを求めてやまない気持ちの籠ったキスだ。
「俺達、長いこと一緒にいたから……言葉で言わなくても通じる部分があったよな」
 唇が離れてから、涼真さんがいよいよ自分の想いを伝え始めた。

「それは俺達が呼吸の合ったパートナーだからこそだと思っている。けど……全部が全部正しく伝わる訳じゃない。俺がセックスで声を出さなくなったのは、飽きてるからじゃなくて……その、俺ばかり感じているのが、恥ずかしくて……」
「ば、馬鹿っ。俺だって感じまくってるよ!」
「……でもお前はそんなに声を出さないだろう」
「そりゃタチが喘いでたらカッコつかねえだろ。でも心の中じゃあ、付き合った当初のお前よりデカい声で喘いでる」
「な、何言ってんだっ……」
 ニニッと笑って、幸次郎さんが涼真さんの額に軽いキスをした。
「これからはもっと思ったこと伝え合おうな。改めてよろしく、涼真」
「……ん。……よろしく、幸次郎」

 ふおぉ……見ているこっちまでドキドキして真っ赤になってしまう。それに気付いた涼真さんが、俺を見て優しく笑ってくれた。
「ありがとうな、那由太」
「へへ。何か俺まで嬉しいです……」

 翌日──
「涼真、今日はホテルの屋上にあるプールで遊ぼうぜ! 絶景楽しみながら安全に泳げるぞ!」
「いや、今日は土産物を買いに行こう。お前の欲しい物は全部買ってやる」
「えー、せっかくだしプール」
「思い出になるような物が欲しくないのか?」
「プール!」
「買い物だ!」
 ……伝え合うのは大事だけど、ケンカになっちゃうんじゃ意味ないよなぁ。

「何だ、今日の涼真は随分と主張するな。珍しい」
 起きてきた刹が目を擦りながら、言い合う二人を見て言った。ヒートアップする二人を止めてくれるのかと思いきや、その横を通り過ぎて冷蔵庫を開けている。
「せ、刹。二人を止めてよ、せっかく昨日良い雰囲気だったのに」
「放っておけばいい。そのうち元に戻る」
 ヒヤヒヤしながらも黙っていると、やがて幸次郎さんが大きく深呼吸をして腰に手をあて、笑った。

「そんじゃ、先に買い物行ってから夕方プール入ろうぜ。それならいいだろ」
「……いや、お前がそんなに楽しみにしてるなら先にプールでも良い」
「いいって、買い物行こうぜ涼真」
「プールを先にしよう」
「買い物!」
「プール!」
 ……何なんだ、一体。