第13話 海に行こうよ、ご主人! -6-

 その後更に十五分かけて刹を起こし、ようやく昼頃になって念願の海へ向かうことができた。
「にゃん太、紫色のサーフパンツ似合ってるな。浮き輪もガキっぽくて良い感じだ」
「……刹って寝起き悪いけど、一度ぱっちり起きたらすぐ上機嫌になるよね」
 五人で海までの道を歩き、近くなってきた潮の香りにわくわく感が上昇して行く。

 青空に入道雲、セミの鳴き声、そよ風。
 そして、海──
 これぞ大人の夏休みって感じの、最高のロケーション。
「刹っちゃん、係のおじさんがパラソル立ててくれるって。二つ頼んじゃっていいよね?」
「ああ、頼む。俺は炎珠と売店で飲み物でも買って来るわ」

 幸次郎さんがパラソルのレンタルに走り、炎珠さんと刹が売店に冷たいドリンクを買いに行く。俺と涼真さんは砂浜にシートを敷いて、風で飛ばないよう手荷物を置いた。
「海、綺麗ですねえ」
「ああ。海を見ていると地球の引力を感じる。電線に遮られていない空を見るのも久し振りだ」
「……涼真さんて、ロマンチックですね」
「はは。幸次郎にもよく言われるが、自分ではそんなつもりはないんだ」
 そういえば旅行前、涼真さんのことが知りたくて彼のブログを読ませてもらった時も同じことを感じたんだ。言葉が綺麗で、流れるような文章で。……これぞ才能なんだろうな、と思う。

「幸次郎は体育会系だったからな。俺はずっと文系で」
「それって、お互いにない部分が合わさって最高じゃないですか。支え合ってるって感じがします」
「そうでもないさ。性格も真逆だとケンカばかりで疲れるよ」
 ケンカするほど仲が良いとはよく言うし、俺も二人を見ているとそんな関係もこみこみでお互いを好きなんだなと感じるけれど……涼真さんはどうやら本気で疲れているらしく、抱えた膝に顔を伏せて「はあ」と溜息をついている。

「那由太は今のご主人達に愛されて、幸せそうだな」
「て、照れますけど……」
「俺はもう本当に疲れている」
「え?」
 涼真さんが顔を上げ、俺の方を見てもう一度溜息をつく。その目は死んだ魚のようだ。
「毎晩毎晩、意識が飛ぶほど抱き潰されて……酷い時は朝から始まって一日中……。外へ出掛ければ必ずアダルトショップに連れて行かれ、新しい玩具を購入して……。普通のセックスなら百歩譲ってまだましだが、あいつのは……あいつの性癖は……」
「ど、どんな性癖なんですか……?」
 ごくりと喉を鳴らし、俺は涼真さんの言葉を待った。

「あいつは、……セックスの時に毎回『自分ではない誰か』になりきるんだ」
「へ? どういうことです?」
「ある時は中学時代の教師で、ある時は塾講で……またある時は変態モブで、また別の日は兄貴で、ヤクザで、医者で、執事で……」
 それって、イメクラってやつだろうか。
 コスプレや役になりきることで、毎回のセックスにちょっとしたスパイスを加えて楽しむという、プレイの一種。

 そこまで疲れるプレイじゃなさそうだけど……と、言おうとした時。
「そういうのもたまになら良いが、毎回となると俺は誰に抱かれているのか分からなくなる。俺はあいつが好きなのに、俺を抱くのはあいつじゃないという気がして……」
「………」
 涼真さんの深刻な悩みに、申し訳ないが俺は少しほっこりしてしまった。涼真さんの口から出た「好き」という言葉が、何だか嬉しかったからだ。