第12話 にゃん太と秘密のお菓子

「お風呂、お先です。次どうぞ!」
「ありがと那由太、じゃあ刹が帰って来る前に俺も入っちゃおう」
 午後八時、エアコンの効いたリビングでの夏の夜。刹は少し遠くにあるレンタルショップに車でDVDを借りに行っていて、今夜は一晩中ホラー映画ナイトだ。
 今日は夜更かししながらお菓子を食べても良いと炎珠さんからお許しが出たため、俺は三日前からずっとこの日を楽しみにしていた。

「ぷはあ! 美味いっ!」
 風呂上がりの火照った体に冷えたサイダーが浸透してゆく。冷蔵庫にはジュースがたくさん、ビールもたくさん。刹が帰りにハンバーガーを買ってきてくれると言うので、今夜は皆で少し遅めの夕飯だ。

 お金はあるのにジャンクフード大好き、コンビニ大好きという炎珠さん。
 最近ではネットで映画も借りられるしファストフードのデリバリーだってやっているのに、車が好きという理由で自ら出掛ける刹。
 だけど庶民の俺としては、毎回の食事が高級フルコースだったり家から一歩も出ずに周囲の人達にあれこれしてもらうよりは、こういう生活の方が楽しい。
 もちろん贅沢に憧れる気持ちもあるけれど、やっぱり「たまの贅沢」だからこそテンションも上がるというものだ。

「あっ、チョコだ」
 ともあれ今夜はお楽しみの映画ナイト。冷蔵庫の中にチョコの箱を発見した俺は、迷わずそれに手を伸ばした。
 コミカルなウサギのイラストが描かれた箱には、英文字で「ラブリー・ジャム・チョコレート」と書いてある。アメリカの子供向けアニメのようなポップさだ。

「炎珠さん、チョコ買ったんですか?」
 リビングから顔を出し浴室に向かって叫ぶと、シャワーの音が止まって「なにー?」と声が返ってきた。
「冷蔵庫のチョコです」
「ああ、幸嶋さんにもらったんだよ。前に渡したお土産のお返しだって」
「すっごく気になります!」
「あはは。食べてもいいよ~」
 許可をもらって、早速ソファに座り箱の蓋を開けてみる。

「わ……」
 ハート形の一口サイズチョコレートが、縦3横4で並んでいる。ころころしていて見た目も可愛く、香りを嗅げばカカオ特有の甘くてほろ苦い最高の匂いがした。
「いただきます!」
 一つ口にいれ、まずは時間をかけてゆっくりと味わう。口の中で溶けて行くチョコの甘さが舌いっぱいに広がり、俺はうっとり目を細めて至福のひと時を楽しんだ。

「外国のチョコって甘ったるいとか、中にドロッとしたの入ってるとかで、苦手っていう人もいるけど……」
 俺はこのあまあまドロドロが何気に好きだったりする。商品名にジャムとあったし、甘酸っぱいフルーツのジャムらしきものが……じゅわっと口いっぱいに溢れてきて……
「うまっ!」
 もう一つ摘まんで口に入れ、ソファに寄り掛かりころころと舌で転がす。

「……んま」
 甘い幸せに身を委ねていると、何だか体がふわふわしてくるのを感じた。俺ってこんな単純だったっけ。いくらチョコレートが好物でも、こんな気持ちになるのは初めてだ……

「那由太っ?」
「あ、……おかえり~、刹~……」
「……酔っ払ってんのか?」