第8話 炎珠ご主人の謎の性癖

 朝から雨が降っている。エアコンの除湿機能をつけていてもリビングの湿気は払い切れず、流石のご主人達もぐだり気味だ。
「あぁぁ、ジメジメベタベタするー……」
「アイス買って来いよ、炎珠ー……」
「絶対やだー……」
 紫陽花の葉を這うカタツムリのように喋り方までぐだついている二人。

「しっかりして下さいよ、二人共」
 乾燥が終わった洗濯物を畳みながら、俺はソファの上で寝そべったり脚だけを乗せて床に寝転がったりしている二人を冷めた目で見つめていた。
「だらしないですよ、大人なのに」
「大人でも湿気には弱いよねえ……」
「プールでも行けたら良いですけど、雨降ってるから無理だし」
「ダメダメ。那由太の裸を他の人に見せられないよ」
 他の人は俺の裸なんか全く興味ないのに。

「プール付きのラブホなら三人で楽しめるけどな」
 上半身裸で床に寝ていた刹の言葉にドキッとして、洗濯物を畳む手を一瞬止めてしまう。つい二日前に初めて三人で泊まったホテルでの出来事を思い出してしまったからだ。
 あの恥ずかしくて照れ臭い、未だに信じられない記念日の一夜。思い出せばすぐに頬が熱くなってしまう……。

「何か楽しいことないかなぁ。こうジメジメしてると、外にデートも行きたくなくなるし……。那由太、何かやりたいことある?」
「えっ?」
 頭の中で「あの日」のことを考えていた俺は、炎珠さんの言葉にまたしても洗濯物を掴んだまま停止してしまった。
「そういえば炎珠。お前、こないだの材料で那由太の服作ってるのか」
「作ってるよ、エッチで可愛いやつ」
「……早よ作れや」
「可愛いもアレですけど、エッチなのは嫌ですよ」

 畳み終わったタオルを脱衣場へ持って行くため立ち上がると、炎珠さんがソファから身を起こして「そうだっ」と明るい声をあげた。
「服の材料以外にも、那由太の衣装買っておいたんだよ。すっかり忘れてた!」
「え、一昨日ですか? 俺と刹がケーキ買いに行っている間に、服も買ってたんですか?」
「うん。那由太の普段着がいつも刹寄りのコーディネートだから、たまには俺の好きな格好もして欲しいなって思って、何着か買っておいたんだよ。那由太との初エッチの記憶が衝撃的で忘れてたよ」
 そう言って炎珠さんが立ち上がり、二階の自分の部屋へ行くためか階段を上がって行った。

「……嫌な予感しかしません。可愛くてエッチな服だったらどうしよう……」
「普段着って言ってたし、まあ大丈夫なんじゃねえの。あいつの『普段着』の基準がどの程度までを指すのかは俺にも分からねえが」
 どたどたと階段を上がって行った炎珠さんが、またどたどたと音を立ててリビングに戻って来る。
「那由太っ、これこれ!」
 そうして俺と刹に向けて広げてみせた、その服は。
「……これこれ、じゃないですよ。そんなの着られませんって」
 それは服というよりも、ふりふり素材で作られた一枚のエプロンだった。