第7話 にゃんタス記念日

 窓の外に広がるネオン。蒸れた肌に心地好いエアコンの風。ベイサイド・シティホテルの二十一階。広い浴室に、清潔で上品なトリプルルーム──ベッドはスーペリアダブルが一つ、シングルが一つ。

 外泊なんて滅多にしたことがない俺にとっては充分過ぎるほど魅力的な部屋だけれど、炎珠さんは「もう少し広い部屋にすれば良かったかな」と残念そうに室内を見回している。
「寝るだけなら充分だろ。風呂もユニットバスじゃねえし」
 言うなり刹がシャツを脱いで、ダブルベッドに寝転がった。

 浴室へ行った炎珠さんが「那由太、那由太!」と俺の名前を呼ぶ。
「どうしたんですか?」
「三人だとちょっとキツいかもしれないけど、三人でお風呂入ろうね。せっかく泡のやつ買ったんだし」
「さ、三人で……?」
 昼間買ったバスバブルの蓋を開けて、炎珠さんが中の液体を浴槽に垂らして行く。綺麗なブルーの液体からはミントの良い匂いがした。

「これでお湯沸かして、後はジェットバスでかき混ぜれば良いのかな?」
「俺全然知らないんですけど、ホテルのお風呂って、こういうの勝手に使っても良いんですか?」
「一応オイル入りの入浴剤だから、受付で聞いておいたよ。使ってもOKだって」
 流石炎珠さん、抜かりない。

 ……しかし本当に三人でお風呂なんて。刹が言っていたフラグ回収そのものじゃないか。いやでもまだ「お風呂=そういうこと」と決まった訳じゃない。今日まで何度も炎珠さん家の風呂に入ってきたけれど、一度もそんなことは起こらなかったし……一人で入っていたからとはいえ。

「え、炎珠さん、その……。お風呂って、普通に入るだけですよね?」
 少しずつお湯が溜まって行く様子を見つめながら、俺は思い切って訊いてみた。このままずっと緊張しているよりは先の展開が分かっていた方が良いと思ったからだ。
「……あ、そっか。エッチなことする時は『事前に言って』って、前に言ってたもんね」
 炎珠さんがニヒヒと笑って、俺の頬に軽いキスをする。

「今日は記念日だから、できたら俺も刹も、那由太に触りたいなって思ってるよ」
「……記念日……?」
「うん。三人で初めてデートした記念日で、三人で初めてお泊りする記念日。お風呂出たらルームサービス頼んで、刹が買ってくれたケーキ食べようね」

 記念日。……このまま行けば多分、俺が初めてを二人に捧げる記念日にもなる。

「もちろん、那由太が嫌なら言ってくれて構わないよ。那由太が嫌がることはしないから安心して」
「………」
 そんな風に優しさ全開されると、余計に断りづらくなる。それに嫌かと言われれば俺自身、そこまで絶対的に拒否したいほど嫌という訳ではないのだ。

「……嫌、じゃないです」
「ほんと?」

 ちょっとくらいなら。二人が満足する程度になら。

「俺も、記念日にしたいです」