第5話 お客さんが来る!

 炎珠と刹のペットになって、約十日。
 今日ほど来なければ良いと思った日はない。

「可愛いよ那由太。知らない子が来るけど、緊張しなくていいからね」
「………」
「トイレは平気か? 何度でも行っておけよ」
「……平気」

 半袖の白いシャツにヒョウ柄のネクタイ、黒い膝丈のパンツ。首には鈴付きのチョーカー。
 どこをどう見ても二十歳の男のファッションではない、正気の沙汰とは思えないコーディネートで固められた俺は、ソファの上で車座になり一刻も早く今日が終わるようにと祈っていた。

 Pット子をMでるCラブ──通称PdMC。

 今日は俺をその世界に投入した男・幸嶋栄治とそのペット青年がこの家にやって来るのだという。特に何をするという名目はなく、ただ食事とお喋りをして楽しむオフ会のようなものだそうだ。

 幸嶋栄治とはここに来る前の一度しか会っていない。あの堅気ではないオーラを放つ男と会うこと自体緊張するのに、今回は彼の「ペット」までやって来るのだという。緊張するなという方が無理な話だ。

「料理も良し、掃除も完璧。──あ、刹。勝手につまみ食いしないでよ。ちゃんとミニトマトまで綺麗に見えるように配置してるんだから」
「うるせえな、いちいち」
「ああっ、ソースの形が崩れちゃったじゃん!」

 炎珠さんは楽しそうだ。料理も昨日の夜から仕込みをして、今朝も俺や刹が起きるよりずっと早くに起きて料理の続きや掃除をしたということが、本人の口から聞かずとも分かる。

「………」
「楽しみにしてたオフ」会か。……このまま俺がローテンションでいたら、炎珠さんの楽しみをぶち壊してしまうことになりそうだ。
 変なところで気を遣ってしまうというか小心者な俺は、抱えた膝に伏せていた顔を上げてソファから降りた。

「あれ、那由太どうしたの?」
「ちょっと手だけ洗ってきます」

 風呂場の脱衣所と同じ場所にある洗面台で、俺は自分の顔を鏡に映してみた。
 相変わらずの酷いファッションだけど、俺の顔はもっと酷い。来客から見れば不機嫌と思われても仕方のない仏頂面だ。せめて笑えるまでは行かなくても、怒っているようにだけは見えないようにしないと。

「……うーん」
 手を洗うついでに顔も洗って、一度さっぱりした状態にさせる。それからまた鏡の中の自分に向かい合い、ニッと口角を上げて笑ってみせる。……変な顔。

「何やってんだ?」
「わっ……、せ、刹!」
 脱衣所に入ってきた刹の手には、皿に盛られたオードブルが乗っていた。恐らくつまみ食いを止めない刹に業を煮やした炎珠さんが、彼用の一皿を即席で作ってくれたのだろう。

「き、緊張しちゃって。強張った顔のままでいたら、お客さんに嫌な印象与えちゃうかなって、思って……」
「別に、気にすることねえよ。向こうだってお前が緊張してることくらい分かってるし。下手に演じたりするよりは自然なままでいた方が、後々の付き合いのためにもなると思うが」

 ……後々の付き合いもあるのか。