第4話 飼い主はみんな親バカ -8-

 ペットに虐待行為をしてはならない。
 ペットの健康は飼い主が管理しなければならない。
 ペットの合意無しに性行為(※挿入行為)をしてはならない。……

「色々な決まりがあるんだなぁ……」
 刹が寝ているソファに寄りかかってパソコンを眺めていると、「おやつだよ!」と炎珠さんがクッキーの皿をテーブルに置いてくれた。

「あ、ありがとうございます……」
「あれ、まだPdMCのサイト見てるの?」
「やっぱどういうものか気になるし……。ていうかこれ、飼い主側の規則は沢山あるけどペット側は特に何もないんですね」
 チョコチップ入りのクッキーを摘まんで口に運びながら、炎珠さんがニコリと笑った。

「そりゃそうだよ、SMペットじゃないんだし。例えペットが逃げたり刃向かったりしても、それは大事にしなかった飼い主の責任だもん」
「はあ……」
 俺以外のペットサイトも数多く登録されているようで、リンクの中から適当なものをクリックすると見覚えのある顔がトップページに表示された。

「……あっ! こ、この人!」
 それは紛れもなく、あの夜居酒屋で俺にこの仕事を紹介した男──幸嶋栄治だった。スーツ姿の幸嶋と、その横に知らない美青年。カップルのように抱き合っている。

「幸嶋さんはPdMCでは俺達の先輩だよ。他の飼い主の相談とかも乗ってくれるし、マナー違反の飼い主にはガツンと言ってくれるし。皆の頼れる兄貴って感じだね」
「仲介とか、斡旋みたいなことも?」
「ううん、那由太の時だけ特別だよ。俺達が個人的にお願いしてたんだ、良い子がいたら紹介して欲しいって」
「………」

 あんなにこわもてなのに、画像の中の幸嶋栄治は優しげな目で青年を見つめている。他の画像でも動画でも、傍から見て分かるほど青年を大事にしているようだ。ペットというよりも恋人同士のそれに近いのかもしれない。

「……ん? あれ、この動画見れない。パスコードが必要だって」
「それは有料設定されてるね。ダウンロード購入で見れるんだよ。有料なのは大抵エッチな動画だね」
「じゃ、じゃあいいです……」

 照れながら他のページを開くと、炎珠さんが悪戯っぽく俺の耳に囁いた。
「那由太の初フェラ動画も有料にしてあるよ。初めて系はかなり人気だから、売上楽しみにしてていいよ」
「……あんなの見られたくないのに!」

 瞬時に頬が熱くなる。俺は口を尖らせてパソコンから顔を背け、炎珠さんが買ってきてくれたクッキーに手を伸ばした。

 画面の中には様々な「ご主人」と「ペット」のツーショット、或いはスリーショットが表示されている。

「那由太、クッキーもっと食べる? 足りなかったら買ってくるよ」
「いえ、平気です……」

 ここに載っている飼い主達も皆して親バカなんだろうなと思うと、何だか変な笑いがこみ上げてくるのだった。

 そんな俺の横で、炎珠さんが「そうだ!」と壁のカレンダーに視線を向ける。

「来週の金曜日に幸嶋さんを家に呼んで、那由太の経過報告も兼ねて食事会をやろう! 幸嶋さんちのペット君も連れて来てもらえば、那由太にも友達ができるし。うっわあ、楽しみ。料理、何作ろうかなぁ」

「……えっ?」