第4話 飼い主はみんな親バカ -2-

「こっちにお尻突き出して、壁にしがみつく感じでね」
「もう少し背中反らせて、そのまま振り返れる?」
「いいね、プリプリしてて可愛いよ!」

 シャッターの音が響く中、炎珠さんの助言という名のセクハラに耐えながらポーズを取り続ける。

「も、もういいですか……背中痛いです」
「そうだね。それじゃあ今後は正面向いて、シャツ捲っておっぱい出してみようか」
「ま、またっ?」
 まるでAV撮影と知らされていなかった無名グラビアアイドルの気分だ。嫌だけど金のために脱ぐしかない、極限の窮地に立たされたような感じってやつ。

 幸い俺は男だから、胸くらいどうってことないけど……ないんだけど。

「………」
 薄い生地のシャツを捲ると、炎珠さんが「可愛いよ~」と頬に両手をあてながら笑った。
「男の子の乳首って、何の機能も果たさないのにめちゃくちゃエロいよね。まさに愛でられるためだけにあるって感じ」
「き、気色悪いこと言わないで下さいっ!」

 真っ赤になって怒鳴る俺を見て可笑しそうに笑う炎珠さん。刹の方はカメラを三脚に固定し、色々弄って映り具合をチェックしている。

 やがて満足のいく設定になったのか、刹が三脚から離れて炎珠さんの背中を俺の方へと押した。
「炎珠、一緒に」
「あいよ!」
「にゃん太はこれを読め」
 さっき炎珠さんが使っていた画用紙の裏側に、刹が新しい文字を書き始める。相変わらず気だるげな、だけど鋭い目付き。黙っていれば普通に男前なのに、どうして……

『これから僕の大事な、二人のご主人様を紹介しますニャン!』。

「………」
「言え」
 どうしてこう、変態的な思考を持つようになってしまったんだろう。

「二人の、ご主人様を……」
 不貞腐れながら画用紙の文字を読むと、炎珠さんが俺の隣に来てカメラにピースをした。

「炎珠です! 二十五歳です! この度、俺も念願のネコちゃんを飼うことができました! 皆様どうぞよろしくお願いします!」
「み、皆様って……?」
「ほらほら、刹も!」

 俺の質問はスルーされ、今度は刹が炎珠さんとは反対側の隣に来て言った。
「刹だ。俺達二人、PdMCへ正式に参加することになった」
「PdMCって?」
 刹を見上げて訊ねた俺の耳に、炎珠さんが囁く。

「那由太。これ自己紹介動画だから、余計なことは喋らないでいた方がいいかも」
「え?」
「那由太の可愛いところ、皆さんに見てもらおうね」
 囁きが終わると共に、頬に炎珠さんの唇が押し付けられた。

「ひっ……」
 バニラみたいに甘い炎珠さんの香りが近くなり、不覚にもドキッとしてしまう。そちらを振り返った俺は、炎珠さんの大きな目と艶やかな唇が嬉しそうに細くなっていくのを茫然と見つめた。

「那由太……」
 糸を引くようなとろけた声で名前を呼ばれ、同時に炎珠さんの手が俺の頭に乗った。
「お利口なところ、見せて」
「な、にを……」

 鈍い俺でもその「音」で分かってしまった──炎珠さんは俺の目を見つめながら、もう片方の手で自分のファスナーを下ろしている。