てのひらの天使 -7-

 その夜──

「お前も寝たか。今日は大騒ぎで疲れただろうな」
 お気に入りの金魚鉢のベッドですやすや眠るブラウを見て、俺は思わず頬を緩めた。頭にある二つのツノが時折ピクピクと動いている。可愛くて、いつまで見ていても飽きない。

「千代晴。ブラウが大きくなったらどうするべきか、悩んでますか?」
 ヘルムートが俺の横に立ち、不安げに目を覗いてきた。
「ん、……」
 ヒト型に成長してからの生活のこと。戸籍や身分証、学校、病院などなど。俺もずっと考えている。ナハトが諸々に関する資金を出すと言っていたが、やっぱりそれは違うのではと子供が産まれて改めて思うようになったのだ。

「………」
 俺の義務は、ヘルムートとブラウを守るということ。そのためなら何でもするということ。

「なあ、ヘル」
「何ですか?」

 初めてヘルムートを抱いた夜に決めた覚悟が、今試されようとしている。

「……あのさ。俺達、クーヘンで暮らさないか」
「え、……?」
「それが一番ブラウのためになると思うんだ。ヘル自身がそうだったように、ブラウも、クーヘンの自然と海に囲まれて育って欲しい。地球が悪い訳じゃないけど、やっぱり元の星の環境が一番じゃねえかなって」
「……千代晴、クーヘンで暮らせますか」
 地球で世話になった人達。親はもちろん衛さんやスタッフ達、瑠偉を含めた友人。
 地球で愛している物。行きつけの居酒屋やラーメン屋、週末のテレビ番組に、普段何気なく買っていたコンビニの弁当。
 それら全てを残して、未知の星で暮らせるか。ヘルムートはそう言っている。

「確かに生活環境がこれまでと大きく変われば、慣れるのにも時間がかかると思う。でもさ、親になったからには子供の人生に責任を持たなきゃならないだろ。子供にとって何が最善か、親が決めてやらねえと」
「……おれは、千代晴の出した答えならそれがいいと思います。クーヘンも地球も大好きですから、どっちの生活でも嬉しいです!」
「もちろん、じゃあ明日からって訳には行かないけど。せめてパティシエとしての腕が衛さんに認められてからだな」
「おれもお手伝いします!」
 嬉しそうに飛びついてきたヘルムートを抱え上げる。

「クーヘン、地球と比べたら何もなくって……退屈な星ですけど……」
「お前がいるだけで、少しも退屈なんかしねえよ」
「……へへ……」

 宇宙一愛しい彼の唇に優しくキスをしてから、俺達は見つめ合い、笑い合った。