ビフォア・バースデイ -9-

 そうして、背後のガラスの壁に大きな藍色のシルエットが現れる。

「お父さん! お父さん……そうだ、おれ……おれ、千代晴とのタマゴ産みました! 大きくて丈夫な水色のタマゴです!」
 膝に乗せていたタマゴを両手で持ち、ヘルムートがビジョンの前へ出して見せる。ヘルムートの兄・アデリオや世話役のリゼルがホッとしたような笑顔を見せる中、カイン王子も「おお……」と目を丸くさせていた。

〈おめでとう、ヘルムート。お父様も喜んでいるよ〉
「元気な赤ちゃん産まれたら、きっとまたお見せします! 楽しみにしていてください!」
 ガラスの向こうで、シロナガス王がゆっくりと体を回転させる。美しいその動きはまるで喜びのダンスをしているみたいだ。

〈千代晴さん、ヘルムート。君達二人の幸せをクーヘンから祈っているよ〉
「兄様、おれ頑張ります。大好きな千代晴と、大好きな仲間達と一緒に……」
〈ああ、信じているよヘルムート。それじゃあ、そろそろビジョンが切れるかな。また会う日まで……〉
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ヘルムートのことは俺が必ず──」
 スゥ、と映像が消えて行く。一番重要な「ご家族への結婚の挨拶」がちゃんと言えず、俺は光を失くしたビジョンに向かって「……守り、ます」と呟いた。

「クソ、制限時間があるとは……。俺、まともに挨拶もできてねえぞ」
「いいんだよ~、ヘルちゃんが選んだ相手って時点で、千代晴ちんの人柄はちゃんと伝わってるよ」
「とはいえ、礼儀としてだな……」
 ふと視線を隣に向けると、ヘルムートがタマゴを胸にあてて静かに目を閉じていた。頬には涙が伝っている。

「……ナハト、ありがとう。兄様達と、それにカイン王子ともお話できて本当に良かったです……」
「いいんだって、これくらい軽い軽い。ていうかよく勘違いされるけど、ボク本来は善人なんだからね。瑠偉くんのことでお世話になったし、少しは恩返ししないと」
 俺はナハトの肩を叩き、感謝の気持ちを込めて頷いた。変わった奴だけど最高の仲間だ。

「前に、赤ん坊が生まれたら戸籍のこととか……色々、金の問題について話してくれただろ。もう少し俺達の方でも考えるから、あれは保留にしておいてくれ。流石に赤ん坊のことまでお前に甘える訳にいかない」
「でも千代晴ちん、百億円なんて強盗やっても用意できないでしょ……?」
「ま、まあ何か考えるさ。これからはヘルムートの家族にだって相談できるしな」

 金のこととなると途方に暮れてしまうが、きっと他にも道はあるはずだ。
 子供のためなら何だってやれる。──世間の親達にならって、俺は改めて腹の中で覚悟を決めた。